京都|「お酒のこまりごとチーム」がケアを変え、患者を変えた|キラッと看護介護実践集より
公益社団法人京都保健会 京都民医連中央病院 4B病棟 / 看護師長 藤岡 志津
増加するアルコール依存症にチームで対応
新型コロナウイルスの流行に伴い、2020年4月以降家計のアルコール消費支出は1年前に比べて増加傾向にあり、入院率は流行前(2018年7月~2020年3月)と比較して約1.2倍に増えています。
当院では2019年11月病院移転後から2022年10月31日までアルコール関連疾患の入院件数は465件・総入院人数は242名(複数回入院74名)で、うち30~60歳代の入院は66%。
アルコールの問題を抱えた患者と関わる機会の増加、40~50歳代の依存症疑いの救急受け入れ増加で、診療の難しさから、アルコール乱用による健康被害を減らすための内科治療に対応する病棟として、2020年8月から消化器内科医長を中心とした多職種で「お酒のこまりごとチーム」を発足。
2021年7月から依存症専門医療機関の身体科へのコンサルテーション事業を月1回開始、精神科医師の学習会や事例検討で看護の悩みや事例を通しての振り返りの機会を得ました。
コンサルテーションで患者に共感する姿勢を学ぶ
当病棟ではアルコール関連疾患での入院を受け入れてきましたが、離脱せん妄や無断離院の患者、入退院を繰り返す患者に対し陰性感情を持つスタッフが多く、特に経験の少ない若いスタッフからは安全が守られていない、対応が不安などの言動が増えました。
患者自身がアルコールの問題として捉えていない否認の状態があるため、内科治療終了後なかなか専門治療につながらず、再飲酒後の入院という無力感がありました。月1回のコンサルテーションでは、病棟からのこまりごととして、「症状が改善すると外出したい」「看護師の目を盗んで無断外出し喫煙、飲酒して帰院され対応に時間がとられる」「ルールを守ってくれない」「食事や水分の制限が守れず我慢が爆発しストレスから大声を出される」「対応に追われ疲労感を感じてしまう」など毎月たくさんの質問や意見が出ました。そのためアルコール依存症の概念から学習を開始。
繰り返す病気であることを理解し、やめたいけどやめられない気持ちを認める、共感する姿勢を持つことを学びました。相手の段階を考えながら関わること、具体的な約束やスタッフの対応の統一、入院の目的をどう感じているか聞き取り、「これくらいならいいよ」と言えることでお互いの関係性を維持できストレスも緩和できることを実践していきました。
コンサルテーションを開始してから、スタッフに「一番大切にしているものは何ですか?」と聞いてみました。
答えは傾聴力が一番多く、本人の思いを知ろうとすること、病院では安心して過ごしてもらうこと、生活背景を知ること、また来てしまったという恥ずかしさ、後悔を少なくとも持っていると思うので責めない関わり方などいろんな思いを持っており、アルコール依存症に対する陰性感情が少しずつ軽減でき前向きな感想に変わってきているのがわかりました。
具体的にどう対応したらいいのかコンサルテーションという相談できる場があり、安心感、対応の変化につながったと考えます。
そしてアルコール依存症の理解を深め共感することで、より良い対応ができていると感じています。入退院を繰り返す中で顔見知りになり、この病棟のスタッフは自分のことをよくわかってくれている、受け入れてくれる病棟として看護師も患者の変化から安心して入院できる環境を提供でき、人間関係も良好になっています。
そして患者の生活背景や成育歴、患者の不安はどこにあるのか、自分たちがどう関わったらいいのかを考えられるようになってきました。
患者・看護師お互いの安心感につながることで治療にも前向きに働きかけができているように思います。
スタッフの変化は、患者の入院治療の機会を保障することにつながっています。
そして入院することで専門的治療につながる機会にもなっています。
患者の思いに沿った支援で徐々に成果が
30歳代の男性は、両親はいるものの自閉症スペクトラムで他者との健全な関係性を築くことが難しく、結果として社会的な孤立状態となっていました。
入退院を繰り返す中で「みんなに迷惑をかけている、アルコールをやめたい思いがあるものの、なかなか行動には移せていない」「いつも家に一人で帰ると、自分でやったことやし矛盾しているが、汚れた部屋を素面で見るのがしんどくてお酒を飲んでしまっていた。自分でもどうしていいかわからなくなってしまうんです」など不安な思いを表出。
時間がある時に声掛けをすることで自分のことを見てくれている、かまってくれているという思いから患者の「生きづらさ」を知ることができました。 60歳代の男性は旅館で働いていましたが、救急搬送の2カ月前から失業中で、食事を取らずに飲酒ばかりしていたそうです。専門治療につながりにくいことから入院中アルコール初診者ミーティングに参加する機会を得ました。
「アルコールで体を壊すなど思っていなかった」「断酒会の当事者から話を聞き自分の体験と重なるところがある」など話されました。またアルコール病棟の機関誌(入院患者さんの感想文集)を見たいと希望があり、専門加療の意欲もみられ、受診日に合わせて退院となりました。外来受診は続いており、再飲酒はしているようですが、「ビール1本で頑張っている」と正直に医師に話ができ再入院にならず経過をみています。
アルコール問題の背景に孤独と貧困があります。アルコールの健康問題は社会的な問題であり、アルコール依存症は当人だけの問題だけではありません。
周囲の支えが必須となります。
またアルコール依存症は認めにくい病気であり偏見・差別をなくすことも必要です。
差別の強い社会では、自分が依存症であることを認めることができず(否認)、専門的治療につながりにくい現状があります。安心して人や社会とつながれるという実感を持てる環境が必要となります。
また治療および以降の支援サポート、医療機関との情報の共有・連携、地域の見守りができる啓蒙活動が必要となります。回復と治療継続には多職種での連携が重要です。まだまだアルコール依存症の患者の理解が十分になったわけではありません。
新規の患者さんも増えてきており、お酒の問題を抱えた地域の生活者としてしっかりと背景を捉え、患者の思いに沿った援助ができるよう支援していきたいと思います。
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用
もっと読みたい人に!書籍のご紹介
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集

COVID-19が猛威を振るい始めてから3年以上が経過し、ワクチンや治療薬が承認され2023年5月8日に感染症5類になりました。通常の医療を継続しながら、感染対策や陽性者の対応・地域の問い合わせに翻弄させられた日々、「まず診る、支援する、何とかする」を実践した日々を忘れてはいけない。後世に残し継承するために、全国のキラッと看護介護のほんの一場面ですが一冊にまとめました。このコロナ禍で起きたことが、なかったことにされないように今後に同様な事態が起きた時に同じことが繰り返されないように、いのちに寄り添った生きやすい社会であることを切に願います。
全日本民医連 看護委員会
掲載日:2026年9月25日/更新日:2024年9月24日









