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ケアの倫理cafe vol.5|世界の人権保障|キューバ 教育・医療の無償化で、 「すべての人の平等」めざす 〜医師数世界一 全住民への専門医療・保健予防策を実践

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キューバ 教育・医療の無償化で、「すべての人の平等」めざす〜医師数世界一 全住民への専門医療・保健予防策を実践

全日本民医連第8次キューバ訪問視察レポートより

 

全日本民医連は2025年6月8日(日)〜13日(金)、キューバへ第8次医療視察団を派遣しました。そのレポートから抜粋して紹介します。
(視察団:根岸京田副会長、西澤淳事務局次長、入江敬一事務局次長、篠原奈緒常駐理事)

 

アメリカによる経済封鎖にもまけず、「すべての人間の平等」めざして

キューバ共和国(面積11.1万キロ㎡・本州の半分)は、人口974万人、共和制(社会主義)をとる国です。キューバ憲法の理念(すべての人間の平等の実現)をめざした国づくりに一貫して取り組んでいます。2019年にはジェンダー平等など社会の進歩に合わせ憲法を改正。

 

医療と教育の無償提供、プライマリヘルスケアの具体化に努め、全国民の健康を管理するシステムを構築し続けています。一方、アメリカのトランプ政権による経済封鎖の強化で、国民の困窮は深まっています。

 

医師数は日本の3倍以上(10万人あたり)

平均寿命は78歳、乳幼児死亡率4人/1,000人で、子どものワクチンは11種、13疾病を予防(うち8種は国産)。医師など医療従事者60万人が世界165カ国で活動してきました。3.5万人の医療従事者が無料で養成され、革命前(1959年以前)の医師数は10万人あたり100人でしたが、2018年には842人(10万人あたり)となり、日本の246.7人の3倍以上で、世界一です。

 

新型コロナの世界的感染の2020年から23年末までにキューバがコロナ感染抑止のために世界に派遣した医師団は42カ国、57部隊、5千人以上、その多くは無償支援でした。アメリカによる経済封鎖により培養液も薬品の情報も得られない中、新型コロナウイルス用のワクチンを5種類開発しました。

 

医師の半数以上は女性

キューバの医師の半数以上は女性です。フィンライ・ワクチン研究所のコンセプシオン・カンパ所長(女性)は、世界に誇るB型肝炎ワクチンやコロナワクチンを開発。キューバで離婚や事実婚が多いのは、基本的生活が保障され、同一労働同一賃金が定着し、母子家庭であっても自立的な生活が可能であるためとされます。

大卒者の6割は女性で、女性の国会議員は53.4%と世界2位(2023年)。ただし15人の閣僚のうち女性は1人、閣僚会議議長は男性、女性は次官レベルです(2023年)。

 

プライマリヘルスケア具体化する医療体制

キューバ医療の特徴は、①病院、診療所、薬局、歯科、老人の家などの地域医療、②急性期・先進医療、製薬、ワクチンなど専門医療、③研究施設、の3層構造を国が統合し運用していることにあります。

 

キューバ全土に住民への専門医療、保健予防策を実行するポリクリニコが設立されたのは1970年代、医師と看護師によるプライマリケアプログラムが導入されたのは1980年代半ばです(プライマリヘルスケアを謳ったアルマ・アタ宣言は1978年)。

 

世界トップレベルの乳幼児死亡率の低さや平均寿命の長さなど、優れた指標を示しています。

 

視察1) ファハルド国立大学病院

 

エミリオ・サーヤス・ソモサ副院長(男性、院長は女性)によると、ファハルド国立大学病院は、241床(重症患者、外科病棟、治療病棟)、31診療科で、「レベル2」の機能を主に果たしつつ「レベル3」の役割も果たし、専門医231人、医学生269人(海外から169人、国内100人)が学んでいます。

 

2024年は海外も含め多くの医師を養成することができ、キューバ国内で唯一のトランスジェンダーの外科手術の国際的な発信も行いました。2025年は、50%以上をデジタル化すること、患者満足度の向上、死亡率最小化に取り組んでいます。

 

視察2) 大型の診療所であるポリクリニコ(総合診療所)〜多くの医学生は家庭医に

 

アルバレス・キニョネス所長(女性)から報告を受けました。訪問したポリクリニコでは地域の30,376人を担当し、ファミリードクターであるコンサルトリオ29診療所を統括しています。医師104人を含む336人のスタッフがおり、看護師は76人。コンサルトリオからは毎日情報がくる仕組みで、妊娠中の女性の数や1歳の子どもの数などを把握しています。

 

診療は基本的に月曜日から金曜日までですが、救急車で運ばれてくる患者もおり24時間対応。訪問日の救急担当には子育て中の女性の医師もいます(24時間連続勤務の後72時間休む)。喘息の増悪患者は酸素対応し、6〜8時間で病院へ移動することになりますが、満床だと1週間ポリクリニコで診ることも。

 

他の当直医師が2人、他スタッフも含め当直は6人。コロナでの対応では、ポリクリニコとコンサルトリオの連携がうまくいき、早めの検査の実施、陰性で軽症であれば自宅に帰し、陽性であればPCR検査を行い隔離センターへ、濃厚接触者も同様に隔離センターで対策しました。コンサルトリオからは、いつ誰に検査をしたか、結果や対応も夕方か夜には共有できていました。

 

医学教育は大学6年制で、9割の卒業生は2〜3年の家庭教育の研修を受け(1割は専門教育に進む)、多くの医師は家庭医となります。

 

ワクチン部では、国内で製造した5種混合ワクチン(百日咳、ジフテリア、破傷風、Hib、B型肝炎)を2~4ヶ月後に、ポリオ(経口生ワクチン)を4~8ヶ月後に、コロナ後はコロナワクチンを2歳時に接種しています。

 

「キューバにおいて最も優先されることの一つは、自前のワクチンを開発し、比較的安価で全国民対象に接種する仕組みと位置付け」とされています。

 

リハ部では、外来リハは患者数一日当たり110人〜120人、訪問リハもあり、理学療法、作業療法、言語訓練をはじめ、発達障害の患者、妊婦などに対応。

 

「(歯などあらゆる)予防はキューバの政治」とされ、38人の専門家が、通常の歯科治療、フッ素塗布、妊産婦、口腔の癌早期発見などに取り組んでいます。

 

 

視察3) コンサルトリオ(家庭医・看護師がペアで働く診療所)

 

ヤニスベル・ディアス・ラファ所長(3年目、女性医師)とソエ・アロンソ・ディアス看護師(11年目、診療所2階住み込み)によると、診療は月〜土曜日で8〜17時まで、午前は外来で午後は訪問、1,538人、716家族を担当。

 

住民は4つのカテゴリー、①健康なグループ(年一回)、②疾患に陥る恐れあるグループ(年二回)、③疾患グループ(年三回)、④障害者のグループ(月一回)にわけられ、母子は子が1歳になるまでフォロー、未婚の女性の健康や避妊(緊急避妊薬等)などについて支援しています。外来は、白紙を受付簿にし、受け付けた順番、コンサルトリオ番号、氏名、年齢、職業を手書き。

 

カルテは一人一冊(紙)で、家族でまとめて管理。電子カルテはありません。担当住民は診療所から300m以内に住んでおり、ワクチンの案内が遅れると問い合わせに来ます。「住民は1961年に始まったこの保健システムを信頼しています」。

 

視察4) 高齢者医療研究所

 

リリアン・ロドリゲス・リベラ所長(女性所長、59歳)とレオナルド・ロメロ・ハルディネス副所長(男性医師、過去にJICA東京に従事)から報告をうけました。

同研究所は革命前の1952年5月7日に設立。設立当時60歳以上の高齢化率13%と今の半分以下の時代に、将来の高齢化を予想して設立されたキューバ唯一の高齢者研究施設です。

 

28床、整形外科的対応が必要な腰や膝の疾患の治療、リハビリ、入院治療を行います。

 

入院は月平均65人。研究所では、高齢者の身体測定、筋肉量、水分量、平衡感覚などの心身の機能、脳の機能、社会活動への参加状況などを把握し分析、社会復帰機能も併せ持ちます。

 

スタッフは、高齢者医療を専門にする医師複数体制、看護師、リハビリ技師、心理士が配置されています。各県には研究所のユニットがあり連携。

 

月に一回は大統領への報告を行い、各省に対応する7つのグループで構成。チリ、ホンジュラスなど海外からも本研究所には研究や勉強に来ています。

 

経済封鎖によって高齢者の健康、生活に深刻な影響が出ており、犠牲者と言えます。

 

キューバから学ぶこと

キューバ憲法の理念(すべての人間の平等の実現)をめざした国づくりに一貫して取り組み、医療と教育を国の骨格と位置付け、国民に無料でそれらを提供し、国民も支持し参画しています。アメリカのマイアミまでわずか145㎞、経済封鎖にあえぎながらも民族自決を貫いています。

 

日本に直ちにあてはめられないと思われますが、プライマリヘルスケアの具体化に努め、全国民の健康を管理するシステムを構築し続ける、その国と国民の姿勢こそ学ぶべきではないでしょうか。

 

〔解説コーナー〕

【全日本民医連のキューバ医療視察の歴史】
第1回全日本民医連キューバ医療視察団がキューバを訪れたのは、1959年のキューバ革命からちょうど半世紀を経過した2009年です。

 

2019年に第7回の視察が行われましたが、その後は新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受けて実現していませんでした。コロナをめぐる状況の変化などから、キューバ大使館から「ぜひ状況をみてほしい」との要望を受け視察団の派遣に至りました。

キューバ大使館からは、事前に次のような言葉を受けました。「トランプ大統領になり、アメリカによる経済封鎖がいっそうひどくなっています。

 

燃料不足による停電が深刻、国民生活の窮状は増しています。この苦しすぎる状況をより多くの人に知ってもらい、連帯してほしい。しかし、貧しくても国民に医療と教育を無償提供し、海外への医療団派遣を行い、(経済封鎖という圧力を加える)アメリカの国民であっても貧困層であることで医師を目指せない人へもキューバは無償で医学教育を受けるサポートをしています。革命の精神はなお生きています」。

 

【キューバ革命について】
1953年に25歲の青年弁護士フィデル・カストロらが蜂起し、1959年にバチスタ独裁政権を倒しました。

 

新政府は、格差の解消やアメリカ優遇の政策の廃止などに取り組みますが、キューバのミサイル危機など大国のアメリカとソ連の間で様々な妨害や制約を受けてきました。

 

70年代には、一部自由経済主義を取り入れた社会主義政策、「ソ連化」を推し進めた時期もありました。しかし91年にソ連が崩壊すると、社会主義国に依存していた経済(社会主義国に85%、うちソ連が60%)は危機的になりアメリカブッシュ政権が制裁をさらに強化し、キューバは国際的に孤立。特にアメリカによる制裁法は、「世界で最も厳しい制裁法」と言われ、アメリカだけでなく海外企業との取引も禁止され、ハバナ港からは外国船が姿を消しました。

 

2014年、オバマ大統領がキューバとの関係改善を表明しましたが、根本的な変化はなく、その後のトランプ(第一次)政権になると「歴史上最長のジェノサイド」と評されるほどの厳しい制裁となり、その後のバイデン政権、現在のトランプ(第二次)政権と継続されています。「アメリカの限界」の壁は厚い。

 

【キューバ憲法改正(2019年)】
キューバ革命から60年を迎えた2019年、キューバ新憲法が成立しました。序文で「人間のディグニティ(尊厳)」を最高の価値に据え、「いかなる条件、状況におけるいかなる差別もなく、平等かつ自由や人権を保障する」とし、それを「国家が推進する」と定めました。

 

女性に関する条項が別に設けられ、家庭を含めた私的な場でも平等な権利が保障され、「国家は女性の全的発達と完全な社会的参加を保障する」とされています(54条)。

 

同性婚は、憲法発効後2年の全国民的論議を経て「結婚は2人の人間の自発的な合意による」とする新しい家族法が制定されています。なお、性別適合手術が無償で実施されるようになったのは四半世紀前の2000年です。

 

社会のあり方は引き続き社会主義とされており、共産党の一党制をとっています。これは新憲法でも維持されました。アメリカの干渉が続くうちは一党制における反対意見の尊重と多様性の重視をするとしています。

 

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掲載日:2025年7月31日/更新日:2025年7月31日