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宮城|コロナウイルス感染妊産婦及び その新生児に実践した当科の取り組み|キラッと看護介護実践集より

公益財団法人 宮城厚生協会 坂総合病院 4階産科病棟 / 主任 織田 美江子

2020年3月から感染妊産婦の受け入れを準備
1) はじめに

 

2019年12月に中国で発生した新型コロナウイルス感染は世界中に大流行となり、繰り返す波を乗り越えて3年が過ぎました。

 

当院では2020年3月から全館面会禁止となり4階病棟ではさらに夫立ち会い分娩も中止とし新型コロナウイルス感染妊婦の受け入れ準備を開始しました。

 

当初は感染妊産婦については指定病院へ搬送することになっていましたが、その後徐々に感染者が増え当院でも感染妊婦の受け入れが始まりました。

 

2) コロナウイルス感染妊婦の受け入れ準備

コロナウイルス感染妊婦の対応は分娩に至る時間が短いと予測される場合は経腟分娩、それ以外は緊急帝王切開で対応するという方針で準備を進めてきました。そのため手術室との連携は必須で産婦人科医師、麻酔科医、小児科医、助産師、手術室看護師でコロナウイルス感染妊婦の緊急帝王切開シミュレーションを重ねました。

 

さらに出生後は母子分離のため、病棟内に隔離エリアを作り、コロナ専用分娩室や感染した母から出生した児の観察室、さらに物品の準備や手順の作成などやるべき事が膨大にありました。また国が定める隔離期間の変更や新生児管理方法の変更などその都度手順を変更して、それでも予測していなかった事象にはケースバイケースで対応することも多くありました。

 

人員不足の中、家庭内感染で出勤できないスタッフも
3) スタッフ体制

夜勤を一人月12~14回というスタッフ不足の中、感染妊婦が入院してきた場合に備えて夜間拘束体制をとりました。感染防止の防護具着脱の練習を何度もし、それでも自分も感染するのではないか、自分が媒体となり家族に感染させてしまうのではないかという不安で心が折れそうな中、様々な準備を繰り返してきました。

 

4) 母乳について

当初は母乳禁止でしたが、2021年になると「陽性の母親の母乳を介した感染の危険は極めて低いということ、また感染母体には特異な免疫物質が含まれているなどの感染への有利な効果も期待され、一律に母乳栄養を中止すべきというエビデンスはない」という日本新生児成育医学会の通達により搾乳は与えてもよいという方針に変更してきました。

 

現在母乳は禁止せず搾乳を哺乳させています。

5) 母子管理

当初はコロナエリアの一室を感染母から出生した児の観察室としましたが、看護室から離れていたためスタッフ1名が感染した母とその児を担当しました。

3人夜勤で1人がコロナ担当をして、通常業務を残りの2名で業務分担をしました。

 

それでも人員不足の場合はコロナ拘束者を呼び出すことにしていたのですが、勤務者で乗り切れる時は拘束者を呼ばずに奮闘しました。

スタッフ全員のチームワークで乗り切れたと感謝します。

6) コロナワクチンとスタッフのコロナウイルス感染

2021年3月から職員のコロナワクチン接種が始まりましたが、2022年8月頃から職員や家族のコロナウイルス感染者が出はじめました。小さい子どもを抱えるスタッフは家族内感染も発生し出勤できない状態が長く続き、スタッフ不足で病棟は成り立たなくなるのではないかと不安になりました。

緊急帝王切開で母子分離、スタッフが母代わりに
7) 経験した症例

これまで経験した感染妊婦の分娩介助は7例、うち緊急帝王切開が1例、新生児管理7名、産褥期に感染確認され母子異室になった症例は2例、出生当日から完全母子分離症例は1例、早産1例、中絶1例。

 

症例①:2022年9月 発症9日目の分娩

準備開始から2年5ヶ月経過し初めてコロナ分娩室を使用した分娩介助でした。しかも児は仮死出生で酸素を使用した呼吸管理が必要で、感染した母から出生した初めての新生児でした。分娩介助や産褥管理、新生児管理とみんなで協力して看護を実践しました。万全の準備をしていましたが、それでも物品不足や配置の悪さ、外回りスタッフとの連携のしにくさなどいろいろな課題が見えて改善を繰り返しました。

 

症例②:2023年1月 初産 陣発入院した翌日に発熱あり抗原陽性

経過が長くなることが予測され緊急帝王切開となりました。

関係部署とシミュレーションを重ねた成果を確認する1例目でした。当時術後は母が10階コロナ病棟、児は4階病棟で保育器管理をして完全に母子分離でした。我々助産師が母代わりとなり、届いた搾乳を哺乳させました。PCRが陰性と確認され保育器から出たあとはスタッフが抱っこをして、1日1日変化する母が見ることのできない表情を写真に収めアルバムも作成しました。

そして10日目で無事母が隔離期間を終了してようやく母子同室が開始となりました。

 

症例③:2023年1月 発症8日目の分娩

準夜勤務内で同時に複数の分娩待機者がおり初めてコロナ拘束者が発動しました。その日の日勤でも分娩があり看護記録のため超勤していた新人1年生がようやく帰宅した翌早朝の呼び出しでした。

5分違いで通常分娩室で分娩が重なり、彼女は感染対策をとりながら先輩の見守りのない分娩介助を経験しました。

「不安だったけど無事に分娩でき児も元気だったので本当によかった」と振り返っていました。

 

弱音も吐かずに落ち着いてよく頑張ってくれたと思います。その学びもしっかり病棟で症例発表しスタッフで共有しました。

スタッフからも「一人でよく頑張った。対応素晴らしかった」と賞賛され、コロナの中でもこうして成長していく1年生の姿はまさに「キラッと」を感じる瞬間でした。

 

8) おわりに

このウイルスと共存してきて3年。制限のある中で周産期にある女性と赤ちゃんの看護を実践してきました。またスタッフ教育にも力を注いできました。まだまだ課題も多く取り組むことがありますが、一つずつ取り組んで行きたいと思います。今後も助産師としての専門職をしっかり果たしていきたいと思います。

 

 

未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用

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COVID-19が猛威を振るい始めてから3年以上が経過し、ワクチンや治療薬が承認され2023年5月8日に感染症5類になりました。通常の医療を継続しながら、感染対策や陽性者の対応・地域の問い合わせに翻弄させられた日々、「まず診る、支援する、何とかする」を実践した日々を忘れてはいけない。後世に残し継承するために、全国のキラッと看護介護のほんの一場面ですが一冊にまとめました。このコロナ禍で起きたことが、なかったことにされないように今後に同様な事態が起きた時に同じことが繰り返されないように、いのちに寄り添った生きやすい社会であることを切に願います。

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掲載日:2025年4月24日/更新日:2024年9月24日