福岡|患者・家族の思いに応える民医連の看護活動|キラッと看護介護実践集より
患者・家族の思いに応える民医連の看護活動の取り組み~ALLY(アライ)のバッジからつながった思いに寄り添う~
公益社団法人福岡医療団 千鳥橋病院 / 看護部長 成松 史
▲LGBTへの支持・支援を示すALLYのバッジ
「この師長さんなら話してみよう!」
Y氏と病棟との関わりを知ったのは、当該看護師長の何気ない一言からでした。
私は看護師長から“患者さんの子どものリモート結婚式を計画している”という、コロナ禍の面会制限が敷かれている中、患者の思いに応える看護活動の一貫としての取り組みの報告を受けていました。その時に看護師長の何気ない「新郎として式を挙げるんですよね」との言葉に違和感を覚え、「新郎として?」と尋ねると“以前は娘さんであったこと、今回は新郎として新婦を迎えること”を話してくれました。
その情報元は患者の夫であったこと、ALLY(アライ=LGBTの人たちの活動を支持し、支援している人たち)のバッジをつけていたことで“この師長さんになら話してみよう!”と子どもさんがトランスジェンダーであることを話してくれたそうです。
白衣のALLYバッジを信頼しての告白に
千鳥橋病院・千代診療所は受付にレインボーフラッグを掲げています。
この旗には性というものは男女2種類だけでなく、「多様性」があるものだという意味が込められ ています。私たちは誰でも気兼ねなく入院できる病院を目指し、LGBTの学習や看護師長を中心にALLYのバッジを白衣につけて日々のケアを行っています。その白衣につけられたバッジを見て看護師長を信頼し告白してくれたこと、そしてそれは私たちの理念に通じる
とても素敵な場面であったことも看護師長と話しました。
患者は癌を患っており、予後は短いことも知っていました。だからこそ、結婚式に参加するためいったん退院することが患者の唯一の望みでもありました。しかし体調不良が重なり病状が進行し退院することが困難となりました。
そこでリモート結婚式ができないか、病棟とご家族、結婚式場担当者と打ち合わせを重ねていきました。当日は、式場と病室とで各スタッフがコントロールし、式は無事に終了しました。患者は痛みをこらえ、満面の笑顔で会場のスクリーンに映りました。
式場の親族を含めた参加者、そして病室の患者・スタッフも笑顔と涙(幸せそうな子どもさんを見て)で顔がグシャグシャになりながら幸せな時間を過ごすことができたと報告を受けました。
その後、患者さんは緩和ケア病棟へ転院し安らかに息を引き取りました。結婚式から約1カ月後のことでした。しばらくして、新郎である子どもさんが病棟に結婚式の写真を感謝の気持ちと共に届けてくれたと聞きました。今回の結婚式に行き着くまでに、お互いの親族・周囲など、どれだけの大きな壁を乗り越えてきたことか、私には想像もつきません。
看護師長から、ご主人とお会いするたびに、家族の絆の強さを感じ取ることができたこと、ALLYのバッジをつけていることが LGBTの方々に勇気を与えていることを強く感じたと感想がありました。
▲結婚式場の職員が病室と式場を同時中継
ジェンダー平等の学習重ね、「誰もが安心して受診できる医療機関」へ
今回のことで、偏見や差別を受けたり、当たり前の権利を得ることが難しい世の中であるが故に、LGBTであることを告白するのに大きな壁やとてつもない勇気がいること、改めてジェンダー平等について、病院として、看護師としての役割について考える機会をいただきました。これからも学習を重ね、「誰もが安心して受診できる医療機関」として取り組んでいきたいと思います。
▲患者さんと病棟スタッフで折った千羽鶴
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用
もっと読みたい人に!書籍のご紹介
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集
COVID-19が猛威を振るい始めてから3年以上が経過し、ワクチンや治療薬が承認され2023年5月8日に感染症5類になりました。通常の医療を継続しながら、感染対策や陽性者の対応・地域の問い合わせに翻弄させられた日々、「まず診る、支援する、何とかする」を実践した日々を忘れてはいけない。後世に残し継承するために、全国のキラッと看護介護のほんの一場面ですが一冊にまとめました。このコロナ禍で起きたことが、なかったことにされないように今後に同様な事態が起きた時に同じことが繰り返されないように、いのちに寄り添った生きやすい社会であることを切に願います。
全日本民医連 看護委員会
掲載日:2025年1月25日/更新日:2024年6月25日