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沖縄|触れ合える面会を目指して|キラッと看護介護実践集より

触れ合える面会を目指して

沖縄医療生活協同組合 沖縄民医連 糸満協同診療所 / 看護師長 石川 清美

 

面会制限の下、納棺も看護師の手で 「悔しい気持ちでいっぱいに」

新型コロナウイルス感染症という名が世界中を駆け巡って約3年が過ぎました。私は3年の月日の中、3度のクラスターを経験しました。クラスター対応中、家族の面会について「仕方ないということで割り切っていいのか。私ができることはないのか」と自問自答することが何度かありました。

 

厚生労働省は、2020年7月「感染者への面会禁止および入院患者への面会制限」を医療提供体制に示しました。病院の正面玄関には「面会禁止」の大きな看板が立てられ、玄関前に職員を配置し、検温、体調チェックを行わないと院内に入れない状況でした。2020年8月、第2波の時に1度目のクラスターを経験しました。私はその当時、急性期の内科病棟で看護師長をしていました。感染に必要な物品が少なく、ゾーニングも試行錯誤で行い、手探り状態の対応を現場は強いられている状況でした。その中で4人の患者さんが永眠されました。

 

亡くなった後もご家族に触れることは許されず、最小限のエンジェルケアを施し納体袋にご遺体をお納めし、棺への納棺を看護師がレッドゾーンで行いました。お見送りをするたびに本人、ご家族の無念さを思い、悔しい気持ちでいっぱいになりました。

リモート面会から直接の面会実現へ

そんな中、リエゾンチームが中心になりリモート面会を始めました。レッドゾーンにいる患者とご家族をつなげたのは、パソコンとスマホでした。看取り期の患者さんのご家族から「顔が見れてよかった」と感謝の言葉が届き、一歩進んだ気持ちになったことを思い出します。永眠された患者のご家族には、希望があれば納体袋に納める前に写真を撮影し送りました。安らかな表情で眠る姿を見て、安堵と感謝の言葉がありました。お骨になるまでご家族のそばには帰れない。「面会できず、家族として何もしてあげられなかった」という思いに向き合い、感染対策を考慮した面会の工夫について課題を持ち、2020年秋、私は有料老人ホームを管理する診療所に異動になりました。

 

2022年1月、2度目のクラスターを経験しました。当ホームは41人が入居しており、半数以上の24人が感染しました。その頃は陽性者を受け入れる医療機関にも空きがなく、ニュースでは連日「医療崩壊」と報道されていました。24人の陽性者のうち2人の方がホームで永眠されました。1人目の方は80歳代男性Kさんです。発症10日目に永眠されました。息子さんより「本人の写真が欲しい」という希望があり、穏やかな表情で永眠されたKさんの顔写真とクリスマス会に参加した笑顔の写真を一緒に息子さんへ送りました。後日息子さんより「ここで最期が迎えられてよかったです」と感謝のメールが届きました。2人目の方は103歳の女性Hさんです。発症後9日目に永眠されました。感染前はホーム中に声が響く、元気な女性でした。感染後は隔離されているお部屋からは声が聞こえなくなり、食事も摂れなくなっていきました。Hさんが看取り期に入り、ご家族より直接会いたいと希望がありました。その頃は重症化しやすいデルタ株が主流の時期で、フルPPE着用が必須でした。

 

長男、長女も高齢者に該当し、感染対策の訓練を受けていないご家族と陽性者を面会させていいのか悩みました。

家族との面会はかけがえのない時間

ちょうどその頃、施設支援に入っていただいていた感染制御の認定看護師に相談する機会がありました。認定看護師の協力もありフルPPEの「装着」指導を長男、長女に行い、特に感染リスクが高いPPEを「脱ぐ」行為は、全て認定看護師が行い、念入りにアルコール消毒を行いました。長男、長女共に短い時間でしたが、Hさんに直接会うことができ、持っていたスマホで家族写真を撮ることができました。ご家族からのことばで印象に残っているのが「103歳であってもコロナで亡くなるのは納得できない。沖縄では天寿を全うしたら、お葬式で紅白饅頭を配る。103歳まで生きたのに、お家に連れて帰れない。饅頭も配れない」でした。Hさんはご家族と面会した2日後に眠るように永眠されました。面会時に会話はできなかったようですが、声を出しながら頷いていたようです。

 

2023年5月に「新型コロナウイルス感染症」は感染法上5類に移行しました。厚生労働省は「患者と面会者の交流の機会を可能な範囲で確保するよう各医療機関で検討をお願いする」と示しています。当施設でも感染状況を考慮しながら、2022年9月から段階的に家族面会を緩和する取り組みを行っています。現在は看取り期の家族付き添い、屋外面会を行っています。5類に移行されたとはいえ、ウィルスの脅威がなくなったわけではありません。今後も高齢者施設では、クラスターを起こさないために施設基準を明確にし、面会の「制限」と「緩和」の取り組みが必要になります。

 

見えないウィルスの対応、対策に追われた3年間でしたが、今回コロナ禍での看護実践について「面会」の視点からまとめる機会をいただき、感謝しています。経験の中から得た正しい知識をもって感染リスクを最小限にした面会を継続していきたいと思います。
高齢者施設で暮らす高齢者にとって、家族との面会はかけがえのない時間です。大切な人に会える日常を目指して、触れ合いながら笑顔で面会している光景を一つでも多く見たい。それが今の私の目標です。

 

未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用

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未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集

COVID-19が猛威を振るい始めてから3年以上が経過し、ワクチンや治療薬が承認され2023年5月8日に感染症5類になりました。通常の医療を継続しながら、感染対策や陽性者の対応・地域の問い合わせに翻弄させられた日々、「まず診る、支援する、何とかする」を実践した日々を忘れてはいけない。後世に残し継承するために、全国のキラッと看護介護のほんの一場面ですが一冊にまとめました。このコロナ禍で起きたことが、なかったことにされないように今後に同様な事態が起きた時に同じことが繰り返されないように、いのちに寄り添った生きやすい社会であることを切に願います。

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掲載日:2024年5月9日/更新日:2024年6月25日