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人権cafe vol5|参政権

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憲法を守る義務は、総理大臣や国会議員にある

戦後、現在の憲法になって初めて国民が国の主人公になりました。国民主権です。参政権とは国民が主権者として国の政治に参加する権利で、選挙権と被選挙権という権利が中心です。
近代憲法では政権を握った者が権力を乱用しないように定めていて、それを立憲主義といいます。日本国憲法では、第99条で、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と定めています。つまり憲法は国民の自由と権利とを定めたもので、その憲法を守る義務があるのは国民ではなく、大臣や国会議員や公務員なのです。しかし、現実は政治家や官僚の憲法違反の不正・横暴が続いています。

 

権力者の不正・横暴を許さないためには国民のたゆみない努力が

ではそんな権力者の不正・横暴をさせないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。その答えは、憲法第12条に「憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と書かれています。私たちの自由と権利は私たち国民のたゆみない努力でしか守れないのです。
ドイツにはワイマール憲法という当時世界で最も民主的な憲法があったのに、国民がヒトラーについていってしまいました。それは「国民が政治に無関心だったからだ」と戦後反省したドイツでは、民主主義的な政治教育を世界で一番大事にしています。
現在、日本では自民党が改憲案の内容に「緊急事態条項」を入れるとしていますが、ヒトラーはこの「緊急事態条項」を使って独裁を完成させました。
2013年に麻生太郎副総理は「ナチス政権下のドイツでは、ワイマール憲法も誰も気が付かないで変わったんだよ。あの手口、学んだらどうかね」と述べました。国民が常に政治に関心を持って監視し、政治に参加していなければ民主主義はいつのまにか独裁化していくことを教えています。

 

「幸福度ランキング」上位の北欧諸国では高校生や大学生の議員も

国民が政治に関心を持ち、政治に参加している国ほど国民にとって幸福な国になります。
ノルウェーに住んでいる女性ジャーナリストのあぶみ・あさきさんが書いた『北欧の幸せな社会のつくり方―10代からの政治と選挙』(かもがわ出版)という本(※)があります。北欧諸国は、国連の「世界幸福度ランキング」(日本は56位)、「ジェンダーギャップ(男女平等)指数」(日本120位)、「報道の自由ランキング」(日本67位)など、世界の上位7位以内に名を連ねています。
北欧諸国の国民が幸福なのは福祉国家を守っていて、日本のような格差や貧困、老後の生活の心配などがないからです。世界幸福度ランキング1位のフィンランドの首相は女性で世界最年少の34歳で就任しました。5党による左派連立政権で、5党の党首も全員が女性です。

政治家を呼んで模擬投票ー スウェーデン

北欧の幸福な国々の民主的な政治は国民がつくっています。気候変動防止を訴えるグレタ・トゥーンベリさんの国はスウェーデンです。
スウェーデンでは国政選挙の時は、全国の中学・高校で事前学習をし、学校に各政党の政治家を呼んで政策を発表してもらい生徒たちが質問。その後模擬投票(学校選挙)し、結果を全国学校選挙事務局に報告します。全国の生徒の各政党投票数を実際の選挙の投票時間が終了した時点で発表し、ニュースで公表されるのです。2014年には全国の77.5%の中学・高校生が模擬投票しています。
ノルウェーでは、「学校選挙」とともに、「子ども選挙」(10~15歳の小中学生)も実施されています。また12歳から政党青年部に入ることができ、15歳からは保護者の承認なしに政党に入ることができます。18歳から被選挙権もあり、高校生や大学生の議員もいます。市民の4割ほどが自分の選択した政党に入っています。

高校生の政治活動を禁止してきた日本自分と幸福な国づくりへ参政権をつかおう

残念ながら日本の投票率は低く、特に若者で選挙に行く人は3人に1人です。投票しないことは現政権を支持していることになり、国民としての貴重な権利「参政権」を捨ててしまうことになります。また、大阪大学と香港の大学の研究者の共同調査では、デモに対する拒否感が、調査した世界各国の中で中国と日本の国民が最も高いという結果です。デモは国民の民主的な政治的意思表示の権利で、欧米では社会科で教えますが、日本では教えていません。
選挙やデモなどへの政治意識が低いのはなぜでしょう。それは、欧米で政治についての教育を推進してきたのと反対に、日本では文部省が1969年に「高校生の政治活動禁止。政治についての教育も好ましくない」という通達を高校に出して、それを破棄した2015年まで続けてきたからです。この46年間の政治についての教育の空白が、日本国民の政治意識を低下させてきたのです。支配者が国民に権利を教えず政治意識を下げて支配することを愚民政策と言いますが、これでは幸福な国はつくれません。

民医連のみなさんは憲法や政治の学習とともに「知を力」にする社会的活動を大事にしています。そのことによって支配者にダマされない賢い主権者を育てています。「参政権」、自分と幸福な国づくりのためにこの権利を行使していきましょう。


民医連 人権カフェ リーガル・アイ

地球も人権も守るには

気候変動への対策と経済格差の是正は、両立できないのでしょうか?「グリーン・ニューディール」という気候変動と経済格差の両方に対処する経済政策(語源は1930年代のニューディール政策)が、特にアメリカで環境問題や貧困問題に熱心な議員らによって強く打ち出されています。例えば、すべての電力を再生可能エネルギーでまかなうこと、その関連インフラへの莫大な投資、大企業への課税などです。また、石炭・石油産業に従事していた労働者たちにクリーンエネルギー産業の職を保障する策も提案されています。
猛暑や大規模な森林火災、豪雨や水害…地球温暖化による気候変動は地球上すべての生き物の命をおびやかす問題です。永年にわたる警告と差し迫るタイムリミットにもかかわらず、抜本的な解決策が見出されないままでいる原因は、資本主義という経済システムにある、という指摘が多くなされています。無限に利益と経済成長を求め続けるシステムである以上、企業は石炭など“より安価な”エネルギーに頼り続け、大量消費社会は終わりません。
また同時に、財界はより安価な労働力を求め、国内では低賃金の非正規労働者(多くが女性)が増え、グローバルに見れば発展途上国に生きる人々が先進国の大企業に低賃金で搾取される構造が深化します。気候変動と経済格差への抜本的な対処は、資本主義の見直しや修正をしてこそ可能だ、という発想がグリーン・ニューディールを生み出したのです。
地球を1つの船に例えると、このままでは船の沈没は確実だと知りながら、乗員がそれに無関心なのは、あまりにもおかしな話です。気候変動への対策が、同時に格差是正や差別の解消につながると知れば、身近な課題に感じる人も多いはずです。国家や大企業が社会的な責任を自覚して変革を進めることが急務です。私たち市民も「無関係ではいられない乗員」として学び、変革を進める政治を求めていきませんか。

 

あすわか共同代表
黒澤いつき

 

掲載日:2021年9月28日/更新日:2023年5月30日