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人権cafe vol4|あたりまえに働き、えらべる暮らしを

民医連 人権カフェ

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障害のある人の人権保障の国際基準~障害者権利条約

障害者権利条約が2006年12月に国連総会で採択されて15年がたち、障害のある人の人権がすべての国で守られるべき国際基準となりつつあります。日本も2007年9月に署名、2014年1月に批准。2016年には障害者差別解消法が制定されるなど国内法の整備も進んでいます。
20世紀、人類は二度にわたる世界大戦を経験しました。第2次世界大戦の死者は8000万人とも言われ、半数が民間人でした。その中にはドイツによるユダヤ人570万人の大量虐殺と、価値なき者として抹殺された障害のある人、約30万人も含まれています。戦時下の日本でも障害のある人が「ごくつぶし」「非国民」とさげすまれ、多くの精神病院では十分な食糧が与えられずたくさんの餓死者がでました。戦後国連は、悲惨な戦争を繰り返さないため「世界人権宣言」(1948年)を採択したのです。

 

戦後もいのちが奪われている

2016年7月、重度の知的障害のある人、19人が殺害された「津久井やまゆり園」事件が社会に大きな衝撃を与えました。また現在、全国4高裁と8地裁で旧優生保護法(1948年)により強制不妊手術を受けた25名の原告被害者による国家賠償請求訴訟が進行中です。同法により48年間にわたって約2万5000人の障害のある人たちが、「不良な子孫を残さないため」として強制不妊手術を受けさせられました。1996年に廃止され、2019年には被害者への一時金支給法が成立しましたが、憲法違反であるにも関わらず、国の明確な謝罪はないまま、わずかな一時金で認定者も900名足らずにとどまっています。
障害者権利条約では、第23条「家庭及び家族の尊重」で、すべての障害者が両当事者の自由、完全な合意に基づいて婚姻し、家族を形成する権利、子の数及び出産の間隔を自由、かつ責任をもって決定する権利を明記しています。
戦後の日本国憲法下で、国家が障害のある人の人権を傷つけ尊いいのちを奪ってきた事実にどう向き合うのか、今後の日本の政策水準にも重大な影響を及ぼす問題です。

 

障害者権利条約のポイント「私たち抜きに私たちのことを決めないで」

障害者権利条約の成立過程でもくり返し主張されたこのフレーズは、同条約を貫いています。障害のある人を権利の主体としてとらえ、政策への意思決定の過程に障害当事者が関わるという主旨です。障がい者制度改革推進会議(2010年発足、現在、障害者政策委員会)でも重要な原則となりました。

 

基本軸は「平等と無差別」

国連障害者権利委員会前委員長のマリア・ソリアード氏は、障害者権利条約が人権モデルの概念に革命を起こし、その基本軸は「平等と無差別」としています。
障害者権利条約ではくりかえし、「他の者との平等」を求めています。世界人権宣言が「すべての人の人権保障」を規定しているにもかかわらず、障害のある人の権利が侵害されている現実をふまえ、排除しないだけでなく、形式的な平等から実質的な平等のため、「合理的配慮」の措置をとることを明記しました。
「合理的配慮」はこれまでの人権条約にはない考え方で、例えば、車いすのためのスロープ設置や手話通訳など障害のある人の社会生活で必要なことを、社会の側に求めました。合理的配慮をしないことを差別とみなしています。
日本でも、改正障害者差別解消法(2021年通常国会)により、合理的配慮について、国だけでなく民間企業にも義務づけられました。施行は「公布から3年を超えない日」とされ、速やかな実施が望まれます。

 

条約を地域のすみずみに根づかせよう

「あたりまえに働きえらべる暮らしを」は、障害者権利条約を地域のすみずみに根づかせて実現したいとの思いを込めた、きょうされんのスローガンです。
2022年春には国連権利委員会による日本の履行状況の審査が予定されていますが、多くの課題があります。障害者の労働の権利(第27条)、自己決定による自立した生活及び地域社会への包容(社会がすべての人を受け入れる)(第19条)などです。
障害者雇用促進法による法定雇用率は、国と地方公共団体で2.5%。民間企業では2.2%で、法定雇用率を守っている企業は48%に留まります(2021年度)。国では、2018年に障害者雇用水増し問題が相次いで発覚。本来、民間企業より高い雇用率を定めて、障害のある人の雇用環境を整え、労働を通して社会参加を促すべき国家機関や地方自治体の基本姿勢が問われる大問題でした。また、精神障害のある人の長期入院問題と知的障害のある人の地域生活が大きな課題となっています。
障害者権利条約を地域のすみずみに根づかせていく実践はすべての人にとっての大事な課題であり、「あたりまえに働き、えらべる暮らしを」の実現は、多くの障害のある人にとって特に切実な課題です。


民医連 人権カフェ リーガル・アイ

女性目線の避難所を

地震、豪雨、噴火…いわゆる„災害大国„であるにもかかわらず、日本の避難所の質が国際基準にまったく及ばないことをご存知ですか?
避難所について国際赤十字が提唱する最低基準(スフィア基準)を一部紹介すると、例えば、
①世帯ごとに十分に覆いのある生活空間を確保する。
②1人あたり3・5平方メートルの広さで、覆いのある空間を確保する。
③トイレは男女別で20人に1つ以上。女性用は男性用の3倍。
などです。
しかし「体育館にザコ寝」という日本の避難所風景は変わらず、海外からは「難民キャンプより劣悪」との指摘も…。質が向上しない根本的な原因は、日本の行政が「上から目線」で、避難者を「支援を施してもらう者」として位置付けている点にあります。スフィア基準は冒頭で、被災者の「尊厳ある生活への権利」「人道援助を受ける権利」を宣言していますが、日本の行政にはその発想がなく、被災者側にも感謝の気持ちを超えて過度に「助けてもらっているのだから不満を言うのはワガママだ」と思ってしまう事情があるように思います。
特に女性を追いつめます。女性目線が欠けた避難所には授乳スペースや生理用品が足りません。さらに、避難所では性犯罪・性暴力が起きがちです。DV、盗撮、のぞき見はもちろん、物陰での強制わいせつや強制性交も、頻発しています。逃げたくても逃げ場はなく、男性スタッフには被害を言いづらく、声をあげても落ち度を指摘されたり「こんな非常時に文句言うな」と軽視されたり、二次被害に遭いがちです。
具体的な改善策としては、避難所設営の段階から女性の視点を入れ、女性や妊婦、子どものプライバシー確保と防犯を徹底すること。また女性スタッフを増やし、悩みや要望を言いやすい環境を作ることが大事です。しかし抜本的には、行政側が「どんなときも住民には尊厳ある暮らしを確保する権利がある」という意識を持ち、住民へも啓発することが必須でしょう。

 

あすわか共同代表
黒澤いつき

 

 

 

掲載日:2021年9月1日/更新日:2023年5月30日