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人権cafe vol3|高齢者の人権保障は すべての年齢への人権保障

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国連の動き高齢者人権条約の策定へ

2021年のいま、国連は、高齢者の人権保障を具体化するため、高齢者人権条約を作ろうとしています。とりわけ昨年からのコロナ禍による高齢者への人権侵害の深刻さを重く捉えているためです。
国連では、1980年代から高齢化と高齢者の取組みを本格的に開始しました。2002年の高齢化世界会議でコフィー・アナン元国連事務総長は、「アフリカでは、高齢者が1人亡くなると、図書館が1つ消えるといいます」と演説。世界中どの地域でもこれは真実であり、高齢者が過去と現在、未来を結ぶ仲介者であり、その知恵と経験は社会にとってかけがえのない宝と強調しました。
そして、マドリッド政治宣言とマドリッド国際行動計画が策定され、高齢者の人権を守る枠組みと、「すべての年齢の人々のための社会を目指して」という壮大なビジョンを示しました。同計画が、国連が策定中の人権条約のベースになっています。

 

年齢による差別を禁止

2010年代からは「高齢化に関する作業部会」が開催され、高齢者人権条約づくりの機運が高まり、議論が深められています。
高齢者は、高齢を理由として他の年代から差別されないことと、高齢に伴う固有のニーズが保障されることが必要です。例えば、長期ケアを受ける権利や居住の権利、社会保障を受ける権利です。長期ケアとは、日本の介護保険の「介護」よりも広く、看護や医療、他者からの世話を受けることを意味します。どこで誰と住んでいても、経済状況がどうあろうと、適切なケアが継続性をもって受けられることが大事です。
ご紹介したいのは、「高齢者の人権保障に関する米州条約」です(※1)。年齢による差別を禁止、高齢者が自己決定し、自律的で独立した生活を送ることを可能にする仕組みへのアクセスを権利として認めています。留意すべきは、締約国に求められるのは、その「仕組み」であり、日本の介護保険のように「高齢者に対し」自立を求めるものではないことです。
また、高齢者が権利侵害を受けやすい分野である暴力や虐待の防止と対応、インフォームド・コンセント、長期ケア、健康権を明文化しています。そして、締約国に権利侵害の防止策や積極的措置の策定、実施を明記しています。

 

「いのちの選別」という人権侵害

コロナ禍で国連は、世界中の高齢者の人権侵害に大きな懸念を示しています。2020年5月には、事務総長名で政策概要「新型コロナウイルス感染症の高齢者への影響」を公表し4つのキーメッセージを発信。その一つは、生命と健康に対する差別への懸念で、高齢のみを理由とし医学的根拠なく行われるトリアージの実施に強い警戒を示しています。
非常時に、いのちの選別が迫られることは歴史的に繰り返されてきたことです。国連はコロナ禍で明らかになった高齢者の人権侵害は、実はコロナ禍以前から潜在化していたと認識しています。そのため、新たな法的枠組みや国際人権条約の必要性を強調しています。

 

日本で高齢者人権宣言をつくる取組み

残念ながら日本の高齢者に関する政策には、国際的な人権保障の水準や議論が反映されているとは到底言えません。この現状を変えようと、国内では日本高齢期運動連絡会が「日本高齢者人権宣言」(第一次草案)を検討しています。1988年の日本高齢者憲章を見直し、国際的な人権保障を反映させて2022年度の完成を目指しています。
高齢者自身が議論に参加することを重視。基本原理は、「高齢者のための国連原則」(1991年)に掲げられた5つの原理、①尊厳、②独立、③参加、④ケア、⑤自己実現です。「他の年代の人々と平等に」あらゆる権利の保障、「固有のニーズ」に応じた権利保障が貫かれ、具体的には、表のように複合的な権利が盛り込まれています。
また、高齢者の人権保障の「最終的な義務」は国にあることを明確にし、高齢者自身の決意表明として、人権の実現と促進に向けた「不断の努力義務」を掲げています(※2)。高齢者の人権保障を徹底することは、すべての年齢の人々への普遍的人権保障を実現し、社会を豊かに発展させることにつながるとうたわれています。


(※1)米州機構は、アメリカ、カナダ、全中南米諸国(全35か国)からなる汎米国際機関。米州というエリア限定なので地域条約と呼ばれます。
(※2)「基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」(97条)、「国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」( 12条)と定める日本国憲法に基づく。

 


民医連 人権カフェ リーガル・アイ

一票の価値は

今では、身分や性別にかかわらず投票できる選挙(男女普通選挙)で自分達の政治的代表を決められるのが当たり前です。しかし、これは人類の歴史上、つい最近まで当たり前ではありませんでした。このことは皆さん学校で習ったかと思います。
また、過去にはたくさん納税した人ほど一票の価値が高くなる等級選挙制というものが日本やドイツで一部導入されていたこともあったそうです。これでは、お金持ちが自分たちに有利な政治を作ってしまうので、格差が広がるばかりですね。
このように、色々とおかしな選挙制度を乗り越えて今の制度が作られたわけです。しかし、男女普通選挙が実現した現在においても、公平な選挙が実現したとは言い難い重大な問題が残っています。それは「一票の格差」の問題です。簡単にいうと、五千人で一人の議員を選出する選挙区の有権者の一票は、一万人で一人の議員を選出する選挙区の有権者の一票の、二倍の価値を持っているという問題です。最近でも、衆参両院の国政選挙においては、最大二倍から三倍の一票の格差があります。これは、ある人がある人の二~三倍投票できるのと変わりません。今の日本でも一人一票という選挙の基本が実現されたとは言い難いのです。
そのうえ世の中には「自分一人が投票しても何も変わらない」と言って投票しない人もいますが、あなたの一票が大事であることに変わりはありません。良い例をご紹介します。二〇一九年の統一地方選挙においては、神奈川県相模原市議選で、共産党候補と無所属候補が同数得票となり、クジにより前者が当選したということがありました。実は、こういったことは珍しくなく、なかには按分票(例えば、佐藤姓の候補者が2名いる場合に、「佐藤」とだけ記載された票について、0.5票ずつ分けること)の存在により一票未満の差で決着した例もあります。
あなたの一票を無駄にしないでください。

 

あすわか弁護士
片木 翔一郎

 

掲載日:2021年7月19日/更新日:2023年5月30日