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岡山|大規模クラスターを経験して|キラッと看護介護実践集より

認知症専門病院のコロナクラスター防止対策の取り組み ~大規模クラスターを経験して~

公益財団法人 林精神医学研究所 岡山ひだまりの里病院 / 総師長 國分 祐子

 

ほぼ全ての患者と半数の職員が感染

当院では、第6波のピーク時の2022年2月に3つの病棟全てで同時期に患者のほぼ全員が新型コロナウイルスに感染し、職員も病棟職員の半数以上が感染してしまいました。

二度と同様な災害規模のクラスターを起こさないためには、組織的な管理体制と当院独自の感染対策が必要との結論に至りました。ここに当院の取り組みを報告します。

1.病院紹介

当院は、認知症専門病院です。入院病床は、認知症治療病棟2病棟120床、精神療養病棟60床の計180床で構成されています。病棟職員配置では看護師と介護福祉士が約6:4で構成されており、精神保健福祉士、作業療法士を約1名ずつ配置しています。認知症の入院療養では、精神症状の緩和と同時に生活を支え、環境を整えることが重要です。看護・介護の両輪に加え多職種との連携を行い、患者中心の個別性を持った医療・ケアを行っています。

 

2.クラスターの概要

当院は、2022年2月の第6波がピークの時期に、3つの病棟のうち2つの病棟からほぼ同時期にそれぞれ病棟職員1名の新型コロナウイルス陽性から始まり、両病棟ともに約1週間でほぼ全員の患者様が感染されました。残りの1病棟でも4日遅れて発生し、ほぼ同時期に院内全患者在籍者数164名のうちほぼすべての160名が感染されました。そして対応した職員は、62名が感染してしまいました。

初発から約1カ月半で終息となりましたが、災害モードでの対応を余儀なくされ、多くの患者様が重症化され、転院及びお亡くなりになり、ADLも低下しました。

大規模クラスターを経験し初動の重要さ確認

当院の認知症患者の特殊性と構造上から、当院のような中規模な病院で、患者を守り、職員を守っていくには、持ち込まないことが大前提で、もし感染者が発生した時は、初動が最も重要との結論に至り、以下の6項目について取り組みました。

 

1) 災害対策統括管理部の立ち上げ

 

組織的な管理体制を構築しました。理事長・院長をトップとした災害対策統括管理部の4つの部門に各部門の部長を配置し、その組織下に師長、主任看護師及び他職種を責任者として配置した7部門、合計21名で構成しました。そして、統括管理部と並列の位置に、看護部による感染対策チームが発足しました。それらの責任者がグループラインにて、院内の情報を共有し、早期の初動に入れるようにしました。

 

2) 看護部での感染対策チーム発足及び感染対策の取り組み

 

( 1)師長1名・感染対策エキスパートナース1名他看護師1名・医師(助言)1名で構成した、感染対策チームを発足しました。
( 2)認知症患者の患者特性に対応する当院独自のPPEの取り決めを行いました。

ガウンは、不織布で、簡単に破れないものを選別し、PPEの種類を下記3つとし患者状態及びケアで区別して着用することとしました。

 

①興奮、暴力等がある患者や床に臥床されている患者の対応時は、ズボンまたはつなぎの防護服を着用

②精神状態が安定されており、ベッド臥床の患者の対応は、ズボン及びつなぎの防護服は不要

③患者に直接ケアを行わない場合は、通常の標準予防策

 

3) 感染対策の教育及び指導

 

( 1)感染対策チームが参入し、PPE着脱の訓練・感染者発生時のシミュレーションを施行しました。

( 2)実際に感染疑い患者が発生した場合には、感染対策チームが直接現場で指示しました。
( 3)各病棟に感染者発生時及びクラスター発生時に対応する物品を常時配置しました。

 

4) 病棟のフェーズ表作成

 

5段階のフェーズ表を作成しました。そして、日々変動するフェーズを電子カルテの連絡画面と病棟入口に掲示し、病院職員の全員に周知できるようにしました。

 

5) 院内の職員動線及び、病棟内の分離

第7波、8波ピーク時は、1階の外来、デイケアを市中とみなし、1階職員と2~4階の病棟職員の職員同士の接触を禁止し、更衣室、食堂、廊下、出退勤口等の動線を1階と病棟を分離しました。また、病棟内も2つに分離し自立群と介助群に分けて患者同士の感染を防止しました。

 

6) 患者ご家族の対応について

予約制による完全非接触での面会室を設置しました。対面での面会をしていただくことで、患者やご家族が少しでも安心していただけたのではないかと思います。

組織的な感染対策で、その後の感染者はゼロに

当院は、災害規模の大型クラスターを二度と起こさないために感染対策を組織的に行いました。その結果、患者様から誰一人として感染者を出すことがなく現在に至っています。今後も、組織的な感染対策の継続を行っていきたいと考えています。

 

最後になりましたが、岡山県連及び他県連から多くの看護師支援と全国の民医連の仲間からの多くの心温まる声援と物資の支援を頂戴し、当院の患者と職員を助けていただき民医連の深い絆を感じました。この場をお借りしまして、厚く御礼申し上げます。

 

 

未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用

 

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掲載日:2024年8月25日/更新日:2024年6月25日