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ナース★アクションがひらいた可能性|集会の記録

 

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コロナ禍の看護現場の労働実態は深刻さを増し、多くの矛盾や困難が広がりました。全日本民医連は、「ナース・アクション」として、看護職員の増員、労働環境の整備、処遇改善、看護学生の学費無償化、院内保育充実などを国に求め、運動を前進させてきました。その経過と到達を報告します。

 

ナース★アクションのとりくみ

 

2022年、看護師の処遇改善として、「看護処遇改善評価料」(22年2~9月にコロナ対象病院看護職員等の賃金を月額4000円程度引き上げるための補助金を交付し、22年10月以降は診療報酬への加算で看護職員の賃金を3%程度、月1万2000円相当を引き上げ)が新設されました。地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員など、就労中の看護職員約168万人のうち35%程度に限られることをふまえ、全日本民医連は、「医療機関に不団結と分断を持ち込む『看護職員処遇改善評価料』を誰もが納得し、良かったと思える内容に抜本的に見直すことを強く求める」会長声明を発表しました(22年10月)。23年2月理事会で「全ての看護職員の処遇改善を求める請願」署名と医療・看護・介護団体などの懇談など、幅広い共同行動を呼びかけました。

 

 

いち早く福岡・東京が独自のアンケート調査や県議会への要請にとりくみ、全日本民医連も全国調査を実施し、35都道府県695事業所の看護管理者から協力を得ました。アンケートからは、「看護処遇改善評価料」について、「評価しない」が8%、「評価するが問題・課題がある」が66%を占め、主な理由として「平等性に欠ける」が7割、「看護師確保や人事異動への危惧」が6割などの声が寄せられました。また、制度を知らないという回答も一定数あり、各地域で広く知らせていく必要性が認識されました。

 

 

運動促進を目的に民医連内看護管理者Web交流集会を開催(23年4月10日)約100人が参加し、先進的なとりくみを共有、経験を学び合いました。

 

 

同17日には、署名第一次分3万筆余を持って、厚労省交渉と記者会見を行いました。訪問看護ステーションの管理者は、「保健所に代わって自宅療養の患者の健康観察の電話かけに追われた」「入院できず不安の強い患者への24時間対応し続けた」と強調し、全ての看護師の処遇改善を訴えました。

 

 

その後も、全国一斉ナースアクションデーの呼びかけや5月30日の白衣の国会要請行動では全国から約100人の看護師が集まり、その後わずか2カ月間で11万の個人署名を集め提出しました。紹介議員は自民・立憲・国民・共産・れいわから43人の超党派の賛同となり、公的医療機関など民医連以外からも多くの署名と賛同の声が寄せられました。各都道府県看護協会などとの懇談もすすむなかで、石田昌宏参議院議員(自民党、保健師・看護師、参議院議院運営委員会理事)も紹介議員になり、看護理事会との懇談会を行いました。懇談では、対象者が限られているとはいえ看護師の処遇改善が実現できたのは、未知の感染症に決死の思いで立ち向かう看護師への感謝の世論が後押ししたことが強調されました。

 

 

すべての看護職員の処遇改善を求める要望については一致し、同じ厚生労働委員で看護師である倉林明子参議院議員(日本共産党)ともしっかりと共闘していることが語られました。

 

 

その後、衆議院、参議院とも厚生労働委員会で審査未了となりましたが、9月には第2回ナース・アクション代表者Web交流集会を開催し、209人が参加。23年秋以降も運動の継続を呼びかけました。さらに、12月には3回目となるナース・アクション代表者Web集会に250人が参加。リレートークでは各地協ごとに県連、民医連看護専門学校、院内保育所から報告がありました。運動の前進と職員の成長を統一させた報告が印象的でした。

 

 

24年1月30日の国会請願行動では、230人の看護師と保育士が「軍事費よりケア最優先の社会へ」と訴え、「すべての看護職員・医療従事者の処遇改善を」(21万4917筆)、「高等教育の無償化を」(10万8716筆)の請願書名を提出。「院内保育の子どもにも平等に予算措置を」求めた要請書もあわせて提出しました。

 

 

院内集会に参加した賛同議員からは「医療・介護労働者の働く環境を整えるのは政治の責任」「このままでは国民のいのちを守る基盤がどんどん崩れてしまう。大軍拡より医療や福祉や教育にこそ予算を使えとの声を広げ、一緒に力を合わせていきましょう」と共闘のメッセージを受けました。

 

 

一歩を踏み出す勇気が看護職員の連帯に

 

当初、看護管理者からは「看護部として民医連以外の医療機関とあらためて懇談するのは初めて!」「県の看護協会会長や訪問看護協議会会長との懇談は緊張!」「看護部としての自治体交渉や議員懇談や国会請願行動も未経験」などの声が多く聞かれました。それでも勇気を振り絞って第一歩を踏み出すと、予想を超える反応に元気になる――というのが実際です。自分たちの経験を交流しあうことを繰り返し、全国の力としてパワーアップしていきました。

 

 

北海道では、知事要請、議員懇談、記者会見を行い、マスコミ数社から取材を受け、「将来にわたり安全・安心な医療・介護制度の提供を求める意見書」が道議会から国に提出されました。画期的だったのは、懇談していくなかで県看護協会や県訪問看護ステーション協議会等でも好意的に受け止められる報告が徐々に増え、群馬では「きらり看護ホームページ」から県看護協会が署名用紙をダウンロードして、会員に直接呼びかけて集めてもらったり、長野では看護協会職員が署名して県民医連に届けてくれたり、徳島県訪問看護ステーション連絡協議会では、会の正式な集まりで積極的に賛同を呼びかけてもらうことができました。

 

 

民医連外の地域の基幹病院から増し刷りした署名が大量に届けられ、数多くの訪問看護ステーションからの賛同署名も特徴的でした。〝打てば響く〟全国の広がりと、分断は許せない、という看護職員の連帯を実感しました。

 

 

看護師養成者数減少と支払い能力を超えた学費高額化

 

看護師等学校養成所の入学生は18年をピーク(6万7026人)に、19年から減少傾向となり、22年は6万2876人でした。看護師等学校養成所の定員充足率も年々低下しています。このままでは、看護の担い手が減り続け、医療制度そのものを維持することができなくなる事態も生じかねません。

 

 

看護養成は学校種別でみると、大学の看護学科は10年で85校増加(20年度303校)に対して看護専門学校は18年をピークに減少し、入学生数は22年には看護大学が初めて3年過程の専門学校を上回りました。看護系大学の約7割は私立大学であり看護学生全体の約3割に該当します。私立大学の学費は500万~700万円と高額のため看護学生全体の平均学費はぐっと引きあがったこともこの10年での大きな変化です。全日本民医連卒後1年目看護師アンケート調査(22年入職者、n=327)では貸与型奨学金ありが166人で全体の50%、返済平均額は236万円、そのうち返済期間10年以上が28%となり、回答者全体の14%(7人に1人)を占めました。もちろん、私立大学が問題なのではありません。政府の責任において教育に予算を使い、高等教育無償化、給付型奨学金の拡充と要件の緩和、看護職養成校への補助を充実させるなど、手立てを打つことは最重要課題です。

看護学生の切実な願いが運動へ~困難な時こそ立ち上がる看護学生の力~

 

コロナ禍の看護学生の実態を明らかにするため、20年9月には「全国看護学生へのアンケート調査」をGoogleフォームで実施しました。調査項目内容は、世帯年収などの設問もあり、学生にとって「触れてほしくない」「とても個人的なこと」との受け止めもあり、当初は協力依頼に躊躇する声も寄せられました。そのなかでも福岡民医連では、県内の全ての看護養成校に協力依頼をするなど幅広いとりくみもあり、短期間でしたが1127人から寄せられました。結果は、①学費はもとより親の収入も減り、経済的な事由で在学もままならない、②アルバイトが禁止され、そもそもアルバイト先がなくなるなかで、それでも学費と生活費を稼がなければならない状態に追い込まれている――など、大変深刻な声が寄せられました。

 

 

一方、医療観に変化があったかを問うと、「役割の大きさと重要性を再認識した」「もっと力をつけたい」など、苦境のなかでも必死に看護の道をめざす看護学生の姿も鮮明になりました。これは社会に発信すべきであると、民医連の看護専門学校の学生自治会に働きかけ、21年1月の厚労省要請行動と記者会見では看護学生が動画で訴えました。コロナ禍で行動を制限されるなか、当事者が実態を訴えることは平時より多くの障壁がありましたが、だからこそ省庁担当者にも「貴重な実態の声」と受けとめられ、テレビ局や新聞取材も複数あり注目されました。

 

 

SNSでは賛同の声だけでなく「看護学生だけ?」などの批判の声もありましたが、東葛看護専門学校の山田かおる副学校長は立ち上がった学生に「その人には厳しく追い込まれている背景がある、あなたたちは風を切って先頭を走り、切り拓いているのよ」と激励しました。テレビ取材では、真剣な学生とのやりとりの結果、当事者が伝えたい内容が曲げられずしっかり報道されました。18年に東葛看護専門学校が自治体との交渉で千葉県流山市の給付型奨学金制度を実現した経験も、この運動を支える力となっています。

 

 

全日本民医連看護代表者会議(22年1月)では、全国の民医連看護職員への共有を目的に、共立高等看護学院(山梨)の河西光子副学院長が看護学生の運動について指定報告しました。参加者からは、「学生が同じ悩みをもつことを知り協働しながら主権者意識を養えたこと、それを支える教員集団も素晴らしい」「自分たちの言葉で要求を訴える学生の姿に勇気をもらった。〝自分たちも〟と現場のナースが立ち上がるイメージがもてた」などの感想がきかれ、看護学生の勇気ある行動は、
ナース・アクションへの飛躍につながりました。

 

 

その後も看護学生は学習を重ね、「誰にも学ぶ権利があり、貧困は個人の責任ではない」ことに確信を深め、「コロナ禍で看護職を目指す学生への緊急支援金等を求める要請書」を4回にわたり国に提出(21年1月、3月、6月、12月)。自らの苦境を国に動画で訴えました。これらの運動により21年度補正予算における困窮学生への給付金の実現へつながりました。

 

 

学生支援のとりくみを継続・発展させるために45期(22~23年)は看護学生支援運動政策チームを発足させ、「国試追試と学生支援を求める厚労省・文科省リモート要請行動」(22年は6月、7月、11月)など、看護理事と看護学校副校長、事務長、学生自治会の看護学生が協力しながらとりくみをすすめました。3回目となる「看護学生実態調査」(22年6~8月、1556人)の結果から、昨年度まで実施されていた学生支援緊急給付金制度の再開などの要望が強いことがわかり、9回目となる11月の要請行動では民医連の七つの看護学校の学生が動画で訴えました。

 

 

23年10月には「高等教育無償化を求めて」の国会議員懇談を開催し、懇談・交流しました。全国の看護学生委員、看護学校副校長・事務長から学生や学校の実態を報告。教員からは「やせてきた学生が、実習中、水だけで生活していた」「親からの仕送りもなく学費が払えないと学生が泣いて電話してきた」などリアルな実態が語られました。

 

 

吉良よし子参議院議員(日本共産党)から「学生への支援の緊急度は切実。東京都は2024年度より東京都立大学の授業料無償化の対象を広げるなど学生の声と運動で政治を動かしている、当事者の声や現場の実態を伝え、政治を大元から変えていこう」と語られました。11月には、「民医連看護学生全国交流会part3~お金の心配なく看護師になりたい」を開催、学生自治会役員を中心に7校43人が参加し、アンケート結果を共有し交流しました。

 

 

「実習中は貯金を切り崩して過ごしている」「本当に困っている学生はバイトを掛け持ちしていてこういう場にも参加できない」など、リアルな学生の声から、助けを求めることのできない学生の存在や状況など、さらに実態をつかむ必要性も再認識しました。先述した24年1月30日の国会請願行動では7校の看護学生が当事者として国と社会に訴えたことは、未来を切り拓くアクションとして特筆しておきたいと思います。今後もWebでの学習、交流を重ね運動を継承していきます。

 

看護師増やせの運動の歴史

 

「看護師(婦)増やせ、夜勤を減らせ」。たたかいの歴史は1960年代にさかのぼります。「夜勤は複数・月8日以内」を求め「ニッパチ闘争」と呼ばれました。新潟(県立病院)にはじまったこの運動は、一気に全国に広がり、初めて政府を動かしました。その後国の低医療費政策により看護労働環境は悪化。1980年代後半に再び看護師が立ち上がった「ナースウエーブ(看護闘争)」は署名540万筆と空前の規模に広がり、92年の看護師の人材確保の促進に関する法律(看護師確保法)の全会一致での制定につながりました。私事ですが、私自身も卒後2年目の看護師として白衣の宣伝署名行動などに参加、国民の医療・福祉を守るために共闘して駅頭で訴えるたくさんの先輩方の勇姿を今でも鮮明に覚えています。世論に訴え政治を動かす力を初めて身近に感じました。

 

 

180年代からの「医療・福祉大削減路線」による医療崩壊に対して、全日本民医連は2008年に『医療・介護の再生プラン案』を提示、「ドクターウエーブ」「ナースウエーブ」「介護ウエーブ」の3つのウエーブの運動が広がり社会を揺り動かしました。そのなかでナースウエーブは看護師増員を求める100万筆署名を達成し、国会決議(民医連史上初めて)を実現しました。多くの国民、医療関係者に広めること、医師・看護師増員、医療改善をめざし、他団体との「協働」「連携」を重視し、とりくまれました。

 

 

2022年からのナース・アクションは、この時期以来の運動と言え、〝たたかい〟を継承し発展させる意味でも大きな意味を持つと思います。

 

 

おわりに

 

上野千鶴子氏(東京大学名誉教授)は、全日本民医連第15回学術運動交流集会の記念講演で、「権利と制度は黙っては向こうから歩いてこない。手に入れたと思ったものでさえ、知らないうちに足元から掘り崩されていく。監視し、参加し、たたかい続けなければ、今あるものも守ることはできない。黙っていたら同意を与えたことになる。」と語りました。

 

 

看護師闘争の歴史からも強く共感します。 英国で10万人の看護師が(2022年12月)、アメリカでは75000人の看護師が(2023年10月)、史上最大規模のストライキで成果を出しています。また日本でも全医労(全日本国立医療労働組合)が31年ぶりのストライキを決行し注目されています。団結して現状を変えていこうとする力は確実に大きくなっています。軍拡ではなくケア最優先の社会を求め、分断に対して連帯を合言葉に、今まで以上に、柔軟に、楽しく、しなやかに、交流しながら運動を広げましょう。

 

 


全日本民医連 理事 宮川喜与美(みやがわ・きよみ)

民医連医療 No.620/2024年5月号
ケア最優先の社会へ〜あなたもナース★アクション〜●特集より

 

掲載日:2024年12月12日/更新日:2024年12月12日