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長野|出産直後に脳出血を発症した事例より|キラッと看護介護実践集より

出産直後に脳出血を発症した事例より
~初めての育児を支えて~

社会医療法人健和会 健和会病院 回復期リハビリ病棟 / 師長 玉井 ますみ

 

コロナ禍で脳出血後のリハビリをしながらの育児訓練

Aさんが当院回復期リハ病棟に入院してきたのは2022年の10月19日でした。

 

自然分娩後に脳出血を発症し、分娩同日に開頭血腫除去術が施行されましたが、右半身麻痺と重度の失語・記憶障害が残りました。

病状が安定したため、リハビリ目的での転院でした。

前医では産婦人科があり、毎日ベビーには会えていましたが、退院と共にベビーとは離れての入院となりました。 当病棟では産後の管理や育児指導などは今までに経験がなく、メンバーも緊張していました。

偶然、病棟メンバーの中に助産師経験のあるY看護師がおり、Y看護師のいるチームが担当することになりました。

Y看護師を中心に受け入れ準備が進められました。

 

2022年10月はコロナの流行で、近隣の病院と同様に当院も面会を禁止しておりました。

面会できない中でベビーとAさんをどのようにつないでいくのかが検討されました。

退院後の生活を考えるとベビーと触れ合うことは母性の発達や育児訓練には不可欠であると考えました。そこで、医長と話し合い、1日1回30分程度のベビーとの面会を許可し、育児訓練を行うこととなりました。

感染対策上来棟者は1名とし、ベビーと共にご主人に面会に来ていただくことになりました。

看護師・リハスタッフで試行錯誤して取り組む

感染対策を取りながら、ベビーの面会時にAさんの育児訓練が始まりました。

右麻痺のAさんがどのようにオムツ交換を行うのか、看護師とリハスタッフで試行錯誤して取り組みました。

コロナ禍でなければ、ご両親にも会えたのですが、来院者を1名としたことで、育児経験者のお母様に来棟していただけず、育児初心者のご主人とAさんとの二人三脚でのスタートです。

Aさん・ご主人の育児の不安はY看護師や子育て経験のあるベテランママ看護師が中心となり対応しました。

リハビリだけでなく、家族3人で過ごす時間も作っていきました。

 

入院から退院の3カ月間にはベビーの成長もあり、授乳・オムツ交換方法も徐々に変わっていきました。

じっと寝て授乳できていたベビーがだんだん動くようになり、その変化にAさんがついて行けるようにリハスタッフもリハビリメニューを作り対応していきました。

Aさんは出産直後発症したためか母乳は出ませんでしたので、左手のみでミルクをつくり、クッションなどを使用して左手で哺乳瓶を持ち授乳していました。

動きが出てきたベビーに対し、ベビーと同じ重さの人形を用意し、麻痺側をどのように使うかくり返し抱っこの練習を行い、ベビーに安全に授乳できるように対応しました。

ベビーがいない時間はおむつ交換やベビーカーが押せるように左手の強化や歩行訓練を行いました。

 

失語についても自分の思いが伝えられるように訓練が行われました。

会話は単語レベルの理解は可能となりましたが、長文や細かい内容は言葉では理解が難しく、細かい内容などは筆談でなら理解することができました。

自分の思いはカードを使用して、思いが伝わるように工夫しました。記憶障害についてもメモリーノートを作り大切なことはメモし、定期的に確認するよう習慣づけました。

施設内外の連携で笑顔の退院

Aさんは里帰り出産時に発症した為、ご主人は神奈川県から仕事をやめAさんの実家近くに引っ越し、転職もされました。

慣れない環境とAさん不在の子育てはAさんのご主人に重くのしかかっていました。

夜間仕事をし、帰宅後からベビーの面倒を見るといった生活をしており、来棟時にご主人に家での様子を伺ったときに「子供が寝ないことにイライラしてしまう」と話されました。

面会時もAさんの記憶障害や失語症にイラつく場面も見られました。

Aさんのご両親にフォローをお願いすることも考えましたが、飲食店を経営しており、ご主人が思うような協力は得られないことや関係性がよくないことから介入はお願いできませんでした。

こうした生活の中でご主人はうつ病を発症されてしまいました。

 

Aさんとベビーを支えるべきご主人のうつ病発症は、Aさんの退院に大きく影響しました。ソーシャルワーカーが中心となりAさん家族の支援体制を作っていきました。

 

退院に向け、どのようにAさん家族を支えるかが検討され、市の子ども家庭応援センターとも連携し、サポートを依頼することができました。

入院中にベビーの予防接種や健診があったことで当院小児科とも連携することができました。感染を考慮し他の患者様がいない時間帯で受診することができ、ご主人から「先生が自分の子育ての経験を話してくれました」との発言があり、小児科医がご主人の思いも傾聴してくれたことで、退院後もAさん家族の相談場所を確保することができました。

 

Aさんは、はじめは「年内に帰りたい」と言っていましたが、母親としての自覚が芽生え、育児が少しでもできるようにとクリスマスもお正月もベビーと家族と別々に過ごし、リハビリに励みました。

何度も涙を流しながらリハビリを頑張り抜きました。入院時は車椅子に移るのもやっとだったAさんが、自分で右足に装具をつけてベビーカーを押すことができるまでに回復されました。

2023年1月28日、Aさんはご主人とベビーと共に笑顔で退院されました。

 

退院後Aさんご夫婦は小児科に来た際に、ベビーの成長の報告とAさんの育児の上達を報告してくれました。

コロナ禍でいろいろなことが制限され、障害を持ち病気と向き合う患者様・ご家族のストレスは計り知れません。増してや障害を持ちながら、子育てという経験のないことに取り組むことは本当に不安が大きかったと思います。

家族と一緒に頑張ること・一緒に喜ぶことなど、今まで当たり前にできたことができなくなり、独りでリハビリに取り組むことは本当につらい日々であったと考えます。

Aさんの退院後の生活は始まったばかりです。

ベビーの成長を社会全体で支えていく取り組みが今後も必要だと考えます。

 

 

未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用

 

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掲載日:2025年8月25日/更新日:2024年9月24日