京都|コロナ禍でも 安心、安全のお産を|キラッと看護介護実践集より
コロナ禍でも安心、安全のお産を
公益社団法人 京都保健会 京都民医連中央病院 3C病棟 / 病棟師長 岡田 裕子
▲母子分離中に、児の成長を看護師が記録する「育児日誌」
感染への恐怖と不安、立ち会い制限の中で
新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)の拡大は、妊娠、出産、育児にも大きな影響を与えました。妊娠中は、感染への恐怖と不安の中で過ごし、医療現場では面会制限がなされたことにより家族みんなで一緒に新しい命を迎え入れることも制限されました。
当院でも、COVID-19の流行に伴い、家族の外来受診の制限や分娩立ち合いの制限をすることになりました。
陽性となった場合の分娩管理の方法について、産婦人科と小児科、感染管理部門で論議を重ねました。当初は基本的に帝王切開の選択としていましたが、現在は産科的な適応がある場合、分娩が遷延する場合以外は、基本的には陰圧にした分娩室で経腟分娩での管理にしています。
母は、出産後感染病棟での管理、新生児は産婦人科病棟での管理となるため、母の隔離解除まで母子分離をせざるを得えません。安全に帝王切開を行うために手術室に陰圧装置を設置し、手術室と病棟との合同で緊急帝王切開のシミュレーションを2回実施しました。
2020年以降から現在まで、当院での陽性妊婦の分娩件数は9件で、全てが緊急帝王切開でした。そのうち3件は他院から分娩直前の転院でした。この経験の中で、どんな状況であったとしても、安心して産み育てられる看護の重要性を感じた症例を以下に報告します。
出産後長期に及ぶ母子分離 ケアと継続支援で笑顔の退院
A氏は、妊娠39週の3人目経産婦で、当院で初めて対応したCOVID-19陽性妊婦です。他院に通院していましたが、陽性者の対応ができず、当院に緊急入院となりました。妊婦は重症化する可能性があり、また経産婦であるため分娩進行が速いことが予測され、入院してすぐに緊急帝王切開となりました。
予想もしていなかった当院への入院と帝王切開に、混乱と不安を抱いていたことが、本人の「今まで順調だったのにこのタイミングでこんなことになるなんて」という言葉と緊張した表情から伺えました。
助産師は丁寧なオリエンテーションを行い、不安に共感し寄り添うケアを徹底しました。妊婦は、笑顔はみられるものの表情は硬く、緊張した面持ちで手術室へと向かいました。手術室では、助産師や手術室看護師が絶えず声をかけ安心できるように配慮しましたが、当院で初めてのCOVID-19陽性者の帝王切開で、スタッフも緊張し、張り詰めた空気が流れていました。
そのため、児が元気に生まれ泣き声が響いた瞬間は、手術室に安堵の空気が流れました。その後児は、すぐに保育器での管理となりました。出産したにも関わらず、児を抱くことも、触れることもできない母子分離は、母親にとってとてもつらいものです。そのため、児の様子を写真で撮り、児の成長記録日誌を作成して、オンラインでその様子を伝えました。
母は写真を見て「かわいい、元気そうでよかった」「家族も写真を喜んでました」と嬉しそうに話し、成長日誌を見てとても穏やかな表情をされていました。児の姿を見ることや様子を聞くことで安心感を与えること、また、愛着形成を促進することにつながったのではないかと思います。
産後のケアの中でも授乳支援は重要になります。長期間の母子分離により、早期からの直接母乳ができないと、母乳分泌に影響を与える可能性があります。そのため、母乳育児を選択された場合は、搾乳やマッサージにより乳頭刺激を行うことで母乳分泌を促進しました。
各勤務帯に必ず助産師が隔離病棟へ出向きケアを行い、また、感染隔離病棟の看護師に事前に乳房ケアや搾乳についての指導を行って、速やかに対応ができるようにしていきました。児が搾乳を哺乳するところを写真やオンラインで見てもらうことで、搾乳のモチベーションにつながり、母乳分泌に良い影響を与えました。
同室後はスムーズに直接授乳もでき完全母乳で退院することができました。当院は母乳育児を通して母子の健康の保持増進を目指すために、母乳育児を推進しています。
母乳育児確立にとって、母子の早期接触や頻回授乳は重要となります。出産直後から長期間の母子分離をしたにも関わらず、完全母乳で退院できたことは、乳房ケアと継続的支援、そして、母の努力があったからだと考えます。
退院時、母が「どうなるか不安でしたが、こうやって退院できてうれしいです」と笑顔で話をされる姿から、安心して出産、育児ができたのではないかと感じました。
母子に関わる全てのスタッフが連携して支援
妊娠・出産は、女性や家族にとって貴重な時間であり、主体的にお産に臨み満足のいく経験ができることは、その後の母子関係に良い影響を与えます。COVID-19の感染予防のために立ち合い分娩の制限や面会禁止といった多くの制限があったとしても、妊産褥婦と新生児、その家族への質の高いケアと適切な医療介入で安全を図らなければなりません。
ICM(国際助産師連盟)からの提言にも、「コロナ禍の妊娠と出産・産後のケアがエビデンスに基づいたものであること、そしてすべての女性と赤ちゃんの人権が守られることが不可欠です」とあります。感染から母子を守り健康に妊娠、出産、育児ができるように私たちは最善を尽くさなければなりません。
感染をしたとしても、可能な限り妊婦が主体的に出産に臨むことができるように説明と対話を行うことや思いに共感することで、安全でポジティブな出産となるようにしていきたいと思っています。助産師だけでなく、母子に関わる全てのスタッフが連携し支援をすることが母子の健康につながるのだと考えます。今後も、安心、安全なお産を目指していきたいと思います。
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用
もっと読みたい人に!書籍のご紹介
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集
COVID-19が猛威を振るい始めてから3年以上が経過し、ワクチンや治療薬が承認され2023年5月8日に感染症5類になりました。通常の医療を継続しながら、感染対策や陽性者の対応・地域の問い合わせに翻弄させられた日々、「まず診る、支援する、何とかする」を実践した日々を忘れてはいけない。後世に残し継承するために、全国のキラッと看護介護のほんの一場面ですが一冊にまとめました。このコロナ禍で起きたことが、なかったことにされないように今後に同様な事態が起きた時に同じことが繰り返されないように、いのちに寄り添った生きやすい社会であることを切に願います。
全日本民医連 看護委員会
掲載日:2025年5月25日/更新日:2024年6月25日