群馬|コロナ陽性患者と向き合う |キラッと看護介護実践集より
COVID-19禍における「心かよいあう看護体制」の工夫
利根保健生活協同組合 利根中央病院 / 看護部長 布施 正子
北関東最大のクラスター発生。コロナ患者受け入れへ
新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れたのは、2020年4月10日です。日本国内初の陽性者が確認されたのは1月15日。当院では2月7日には「帰国者、接触者外来」を設置し、同月にダイアモンドプリンセス号にDMATを2隊派遣しました。新型コロナの足音が徐々に迫っていることを感じ、緊張感が高まったことを覚えています。
受け入れた陽性患者は、二次医療圏外の高齢者施設で発生したクラスター対応でした。入居者、職員ら合わせて68名が感染し16人が死亡という北関東最大のクラスターでした。当時、7都道府県で緊急事態宣言が発令され、県内でも感染者数が3桁に迫る勢いでした。
52床の感染症指定病床では対応しきれず、県から受け入れ病床を200床まで広げる方針が出され、当院にも依頼があったのです。
情報の共有と対話を心がける
私は、「いのちの平等を掲げ二次救急に力を注いできた当院の使命である」と自分に言い聞かせ、決意を新たにしました。陽性・疑似症含め10名の患者を受け入れました。感染症管理認定看護師長(ICN)、インフェクションコントロールドクター(ICD)を中心に「感染対策会議」を毎朝開催して入念に対策を検討し、基準・手順の整備を行いました。現場にも足を運びました。ICNによる担当看護師一人ひとりの手技の確認や、私もラウンド、声掛けを行うなど看護師たちの不安の軽減に努めました。
コロナ患者担当看護師以外の職員からも「コ
ロナ担当看護師と他の看護師の動線を分けてほしい」「更衣室を別にしてほしい」などの声が上がっため、師長面談やICDに依頼して説明をしてもらうなど丁寧な関わりを心がけました。感染症には三つの顔があります。一つ目は「病気」、二つ目は「不安」、そして三つ目が「差別」です。最たる差別の例としてハンセン病の歴史があります。
福島原発の時の風評被害もそうでした。感染対策会議から正しい情報をタイムリーに伝えてはいましたが、現場の取り組みを「看護部ニュース」として発行。看護師長による日当直を開始し、看護部全体で取り組めるよう情報の共有と対話などに心がけました。怖いものは避けたいと思うのは人間の正常な心の反応です。
少しでも不安が軽減し、看護部が分断されることがないように、三つ目の顔「差別」に対峙しました。陽性患者担当看護師たちは、緊張した中でも笑顔を絶やさず、高齢かつ認知症の患者さんたちに寄り添う看護を実践してくれました。日本看護管理学会から「ナースはコロナウイルス感染患者の最後の砦です」というメッセージが発表されました。
「医師と看護師で何が違ったか? 医師は隔離された部屋に電話やモニターで患者に説明し、看護師は患者の一番近く、患者のそばでケアをします」と。個人防護具を纏い患者にケアを提供する看護師たちの後ろ姿に誇りを感じ、胸が熱くなりました。『看護──ベッドサイドの光景』(増田れい子著、岩波新書)の中に、「人間対人間の関わりを看護実践とし、病気を治す過程において、重要である。」と記されています。まさに、当院の看護師たちは人間対人間の関わりを実践してくれました。
いのちと真剣に向き合い、できることに精一杯取り組む
陽性患者受け入れ開始1週間目に担当職員複数名から有症状者が発生しクラスターとなりました。感染した看護師の一人ひとりの顔が浮かび、心に激痛が走りました。もう一つの痛みはコロナハラスメントでした。感染した職員の家族、病院職員にまで厳しい声が寄せられました。病院は災害対策本部を立ち上げ、目的の1番に「職員を守る」を掲げ、コロナハラスメント対応を位置づけました。行政の働きかけ、三役による職場ラウンドで職員の不安を吸い上げ、疑問点は必ずフィードバックするよう心がけました。
困難に陥ったとき、組織の弱みが膨らんできます。押しつぶされそうになったとき、全国の仲間から寄せられた支援や地域の方たちからの励ましの手紙、そして苦境を乗り越えようとうる職員のパワーが力となり、乗り越えることができました。
その後、病院は陽性者の入院受け入れを一旦中止。発熱外来中心に、断らない救急と陽性患者の入院先のフォロー、保健所と協力し感染拡大を食い止めるための積極的疫学調査を旺盛に実践しました。当時、コロナの疑いがある患者の救急受け入れ先が見つからず、たらい回しや在宅死が全国的に報道されていましたが、地域のなかで「コロナ患者の最後の砦」の役割を担っていたのは、間違いなく利根中央病院でした。
そして、新院長の下2021年9月からコロナ陽性患者受け入れ病棟を再開しました。果たして担当看護師は集まるのか?正直不安でしたが、2割もの看護師から意思表示がありました。また各科の協力もあり4対1看護、12床の病棟を設置しコロナ禍を乗り越えることができました。
2023年5月8日現在、入院患者受け入れ総数330人。発熱外来では、延べ28,000件のPCR、抗原検査を実施しました。いのちと真剣に向き合い、それぞれの立場でできることに精一杯取り組む。私は、新型コロナウイルス感染症対応をとおして、看護師という職業に改めて重みを感じると共に、当院の看護師たちを誇りに思いました。
▲夜中11時に消毒を行う師長たち。このパワーの源は?
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用
もっと読みたい人に!書籍のご紹介
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集
COVID-19が猛威を振るい始めてから3年以上が経過し、ワクチンや治療薬が承認され2023年5月8日に感染症5類になりました。通常の医療を継続しながら、感染対策や陽性者の対応・地域の問い合わせに翻弄させられた日々、「まず診る、支援する、何とかする」を実践した日々を忘れてはいけない。後世に残し継承するために、全国のキラッと看護介護のほんの一場面ですが一冊にまとめました。このコロナ禍で起きたことが、なかったことにされないように今後に同様な事態が起きた時に同じことが繰り返されないように、いのちに寄り添った生きやすい社会であることを切に願います。
全日本民医連 看護委員会
掲載日:2024年10月28日/更新日:2024年10月28日