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北海道|苫小牧病院の実践|キラッと看護介護実践集より

COVID-19軽症患者を受け入れた 苫小牧病院の実践

北海道勤労者医療協会 勤医協苫小牧病院 / 看護部長 小澄 悦子

突然の患者受け入れ要請

【はじめに】

苫小牧病院は、急性期・回復期から在宅医療まで地域で暮らす人々をトータルに支える地域医療支援病院です。新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)の流行以来、感染対策強化はもちろんのこと、発熱外来の開設、PCR検査の導入、疑似症患者の受け入れなど、地域住民のいのちと生活を守る活動を行ってきました。今回、地域の要請に応えてCOVID-19軽症患者を受け入れた経験を報告します。

 

【受け入れの経過】

苫小牧市内の陽性者の発生は、2020年10月から途切れることなく、12月からは増加の一途でした。そのような状況の中、苫小牧病院は保健所から緊急要請を受けました。12月18日、苫小牧市内では唯一陽性者を受け入れていた第二種感染症指定病院が職員の感染を機に新規受け入れを中止する事態となり、地域医療は崩壊の危機を迎えていました。私たちにとっては突然の陽性者受け入れ要請でしたが、戸惑っている時間はありませんでした。その日のうちに、院長、事務長とともに覚悟を決め、職員に宣言し準備に入りました。

 

【受け入れの準備と取り組み】

私たちは、職員の安全を守りながら、できる限り早期に受け入れを開始する方針を持ちました。そのためには、陽性者を受け入れる環境の整備、職員の意思統一、体制の確保を同時進行で進める必要がありました。受け入れ宣言後の職員の反応は様々でしたが、未曾有の感染災害ともいえる状況下で看護師だからこそ抱く感染への不安や、突然の受け入れ方針に気持ちが整わないことを理解し受け止めながら、できること、やるべきことをひとつずつ進めていきました。

 

陽性者の受け入れに当たっては、一般急性期病棟の地域包括ケア病床12床を休止し、ゾーニングにより感染病床4床として運用することになりました。また、感染対策マニュアルの見直し・追加も必要となりましたが、法人内の感染管理認定看護師の支援を受け急ピッチで準備が進みました。看護体制は、感染病床を担当することに了解を得られた7名で3交代を組むことができ、一般病床と合わせて3名夜勤としました。夜勤要員を確保するために、一般病床の病床数は制限することとしました。

 

一方で、全職員が準備段階からこの取り組みに参加しました。必要な物品の手配は総務、陽性患者の入院から退院までの流れの整理は医事課、感染病床の設営は様々な職種が協力しました。病棟機能維持と患者へのケアを低下させないため、当該病棟と他看護単位間で看護師の相互支援を確立しました。外来でのトリアージはリハビリテーション科が主に担当、感染病床担当医師の体制確保のため外来診療の見直しや医師間の役割分担の調整などが行われました。また、感染管理認定看護師による全職員を対象とした感染対策の講義を2回実施しました。これらのことが、実質1週間という短い期間で整えられ、病院全体の受け入れ準備が進んでいきました。

 

【受け入れの実際】

12月28日、陽性者の受け入れが始まりました。人工呼吸器を持たない苫小牧病院でできることは、軽症者に退院基準を満たすまで安心して療養してもらうことでした。また、ゾーニングで仕切った病床で一人夜勤をする体制では、日常生活自立で意思疎通に問題のない方に限定する必要がありました。生活に支援が必要な方の入院相談もありましたが、安全に今回の任務を遂行するために断らざるを得ず、心が痛みました。どうか無事に回復してほしいと祈ることしかできず、陽性者の対応に関わる行政の職員やこれまで単独で受け入れていた病院の苦労はいかばかりかと、思いを寄せずにはいられませんでした。

 

2月までの陽性者の入院紹介は19名、実際の受け入れは13名でした。そのうち1名は、入院継続困難で即日退院し、もう1名は病状悪化で転院となりました。退院基準を満たし療養支援を終えられたのは11名でした。頻回に訪室しないのがいつものケアと異なるところであるため、夜間の安否確認もどのように行うか、手探りでの実践でした。また、夫婦で感染し、伴侶を亡くされたものの、互いに隔離状態であったため看取ることも葬儀への参列もできなかったつらい事例も経験しました。

 

1月中旬、新規入院受け入れを再開した感染症指定病院から当院に感謝の電話が入りました。「職員の皆さんが苫小牧病院でも陽性者の受け入れを始めたことを知り、大変元気づけられている、自分たちだけが苦労していると思っていたが、支えられていると知ったのでもう少し頑張れそうと言ってくれている、感謝の気持ちを伝えたい」という内容でした。思いがけないその報告を受け、私自身が救われる思いでした。その内容は全職員で共有しました。幸い、院内感染を起こすことなく受け入れを終えることができたのは、職員の努力の賜物であると実感しています。

 

苫小牧病院での今回の取り組みは、突然の要請への対応としてスタートしたため、職員に十分な時間をかけて説明し同意を得ながら実践することは叶いませんでした。しかし、このように地域と繋がり貢献できたことに確信を持ち、これからも全職員とともに議論しながら病院が果たすべき役割を発揮していくことが求められています。

 

【おわりに】

忘れてはならないのは、感染との闘いはまだ道半ばであるということです。今回の経験を活かし、職員及び地域を守る医療活動を推進していきます。

 

 

未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用

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COVID-19が猛威を振るい始めてから3年以上が経過し、ワクチンや治療薬が承認され2023年5月8日に感染症5類になりました。通常の医療を継続しながら、感染対策や陽性者の対応・地域の問い合わせに翻弄させられた日々、「まず診る、支援する、何とかする」を実践した日々を忘れてはいけない。後世に残し継承するために、全国のキラッと看護介護のほんの一場面ですが一冊にまとめました。このコロナ禍で起きたことが、なかったことにされないように今後に同様な事態が起きた時に同じことが繰り返されないように、いのちに寄り添った生きやすい社会であることを切に願います。

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掲載日:2024年8月24日/更新日:2024年9月24日