岩手|未来への継承 コロナ禍を経て見えた医療従事者の使命|キラッと看護介護実践集より
盛岡医療生活協同組合 川久保病院 / 外来看護師長 北舘 智
学習会や会議などを通じ感染対策方針の共有を図る
当院は盛岡市南部を中心に地域に根差した総合診療を展開しています。120床の亜急性期病院で、二次救急病院などに認定されています。
全国で唯一、新型コロナウイルスの感染者が「ゼロ」だった岩手県で、初めて感染が確認されたのは2020年7月末のことです。
その後も地道に対応してきた3年間の軌跡をまとめます。 当院では2019年12月に新しく開設したばかりの「健診センター」を2020年5月の連休後から「発熱待合(後の発熱外来)」に変更。
同時に行政からの要請に応え、帰国者接触者外来の開始や他病院への見学を通じて感染対策のノウハウを学び、感染拡大に備えました。2020年11月からは「発熱等の症状がある場合の相談・受診方法」が変更になったため、「発熱外来」を開設。外来看護職員の関与が増え、不安を抱える職員も増えてきました。
感染対策の指導や学習会の開催、情勢に応じた説明などを行い、「コロナ対策本部会議」を管理部と感染委員会メンバーで毎週開催し、病院の感染対策方針について共有を図りました。
一人も辞職・休職することなく多くの困難を乗り越える
発熱外来を開設するからといって人員補充などはありませんでしたので、どのように人員配置を行うかが課題となりました。
効果的にスタッフの移動を行うため、各診療科に主担当と副担当を配置。主担当は他支援を行わず、副担当が他科支援。
リベロは全体の動向を注視し必要な場所への支援というスライド方式を採用しました。
混雑時は各診療科に少人数体制で運営してもらい、発熱外来への支援。また他部署からの支援もあり、最大で8人の体制を確保することができました。
発熱外来の運営には全職員が関わり、外来職員以外の職種もサポートに従事。事務職員やリハビリ職員等が駐車場係に、検査課職員や保育士が検査スピッツの準備に当たるなど多面的なサポートがありました。
検体採取方法は、2022年1月に検査用のコンテナが設置されるまでは、基本ドライブスルー方式が中心で、大雨、大雪、猛暑などの気象条件に左右され、肉体的・精神的な疲労が蓄積しました。
一日中N95マスク装着することにより、顔にマスク装着の跡が刻まれていきます。
一部のスタッフは感染を恐れて、家族とも離れて生活しなければなりませんでした。
そんな過酷な状況に拍車をかけるように、「発熱外来で働いていることで、家族から非難された」「コロナ対応していると、保育園に預けることができない」等、医療従事者に対する偏見もあり、発熱外来で働いているとは周囲に言えませんでした。
コロナ禍においては、人との繋がりが希薄化し、様々な面で制約を受けました。
私たちは、気になる患者さんの中断訪問を行っていましたが、お互いの感染リスクを考慮して中止と判断。
しかし、そうした状況でも感染対策を一つずつ重ねていきました。
朝会は診療科ごとに行う小規模なものに変更。連絡事項は、外来スタッフ全員に電子カルテのメールを利用しました。
気になる患者さんの訪問は、2022年秋から徐々に再開し、2023年春には様々な訪問を再開。
貧困の中で生活の限界に達した人々が増え、入院患者数も増加しました。
スタッフに関してですが、疲労がピークに達していたにもかかわらず、柔軟性と責任感を持って仕事を遂行し、一人も辞職や休職することなく乗り越えてくれました。
また、業務中の感染もありませんでした。
当時の私には余裕がありませんでしたので、スタッフが気遣ってくれていたもこともわかりませんでしたが、後日アンケート調査を行いスタッフの思いを聞くことができました。
発熱外来を始める前、外来看護師は「自分が感染したら怖い」「家族に感染させるリスクがあるので仕事を辞めようと考えていた」とアンケートに記載されていました。
もし事前に聞いていたら、発熱外来の開設について悩んだかもしれません。

持続可能な医療体制の構築へ今回の経験を伝えていきたい
この3年間は言葉では表現しきれないほど濃密な経験でした。新型コロナウイルス感染症に懸命に立ち向かうことで、地域や県内からも注目を集め、テレビ取材も受けました。
保健所圏域内で、受診相談があった場合には当院を紹介されることが多く、なるべく断らず地域貢献をしてきた自負があります。
情勢が急激に変化するため、必死に学びながら軌道修正を加えることは今まで経験することはありませんでしたので、今回の経験では混乱しながらも成長することができました。
私は看護管理者として、いかなる状況でも「患者第一」という精神を重視し、スタッフの疲労を軽減するための判断が重要だと感じました。
コロナ禍で医療従事者は大変な苦労を経験しましたが、医療の本質を考えると、患者が苦しんでいない限り、医療従事者の苦しみは二の次になります。
私は医療従事者としての決意と誇りを持ちながら、これまでの経験を通じて成長してきたと信じています。
この経験は医療現場における貴重な財産となるでしょう。コロナ禍により、私の子供たちも大会や修学旅行などの貴重な経験ができず非常に残念な気持ちで一杯です。しかし5類に移行した現在、私たちは新しい時代を創りながら、未来の子供たちに貴重な経験を提供できるよう努力したいと考えています。
今後の発熱外来は縮小せざるを得ませんが、スタッフの疲労を軽減するためにAI問診の導入など、感染対策に配慮した発熱外来を検討しています。
ここまで述べてきた経験を伝えていくことで、持続可能な医療体制の構築や、より良い医療の提供に貢献できるでしょう。最後に、未熟な部分や至らなかった点もあったかもしれませんが、私を信じて一緒にたたかってくれたスタッフに心から感謝しています。
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用
もっと読みたい人に!書籍のご紹介
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集

COVID-19が猛威を振るい始めてから3年以上が経過し、ワクチンや治療薬が承認され2023年5月8日に感染症5類になりました。通常の医療を継続しながら、感染対策や陽性者の対応・地域の問い合わせに翻弄させられた日々、「まず診る、支援する、何とかする」を実践した日々を忘れてはいけない。後世に残し継承するために、全国のキラッと看護介護のほんの一場面ですが一冊にまとめました。このコロナ禍で起きたことが、なかったことにされないように今後に同様な事態が起きた時に同じことが繰り返されないように、いのちに寄り添った生きやすい社会であることを切に願います。
全日本民医連 看護委員会
掲載日:2026年4月21日/更新日:2026年4月21日








