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三重|病院クラスターを 振り返って|キラッと看護介護実践集より

みえ医療福祉生活協同組合 津生協病院 / 総看護師長 落合 聖子

 

唯一発生したクラスター、患者60名、スタッフ32名が陽性に

この報告は3年に及ぶ新型コロナパンデミックの間に、当院で発生した唯一のクラスターの紹介です。

全国の皆様から見ればよくあるクラスター事例にすぎないと思いますが、このクラスターで奮闘いただいた当院の職員の皆さんへ感謝を伝えるとともに、今後当院に入職する後輩の皆さんへ先輩方の奮闘を語り継ぐためこの紙面を使わせていただきます。

 

県連内唯一の病院である当院では3年間クラスターの発生はありませんでした。

それは職員の感染対策の賜物であると常々感謝していましたが、その奇跡はいつか終わると覚悟はしていました。

しかし、突然やってきたクラスターは想定外の連続でした。

最終的には感染による死者を出すことなく無事に終息しましたが、貴重な経験をし多くの学びを得る機会となりました。

 

当院は110床の病院です。急性期病棟(50床)と地域包括ケア病床を含む障害者病棟(60床)があります。

 

第8波では三重県内でも連日3,000~4,000人の陽性者が報告されていました。

2022年12月23日、障害者病棟の2名の看護師の陽性を契機に、発熱や咳症状がある入院患者3名の検査をしたところ全員が陽性、当該病棟の患者と職員全員のスクリーニング検査を実施したところ、患者21名、職員16名の陽性が判明しました。

最終的に患者45名、職員21名が陽性となりました。

数日後には急性期病棟でも陽性患者が発生し、その後患者15名、職員11名が陽性になりました。合計60名の患者、32名の病棟スタッフが陽性となりました。

医師4名も陽性でした。

 

終息宣言が出される2023年1月18日までの26日間、全職員の協力を得ながらクラスター対応に取り組みました。

他部門の支援を得て最低限のケア、業務を行う

障害者病棟では、多くの職員が陽性となりましたが、無症状の陽性者には本人の承諾を得て出勤していただきました。

陽性・陰性の職員が混在して業務をするため病棟全体をレッドゾーンとし、フロア内ではN95マスクとフェイスシールドの着用を徹底しました。

初めてN95マスクを使用する介護福祉士や看護補助者には戸惑いもみられましたが、着脱の手順を掲示し周知を図りました。

数年前の疥癬のアウトブレイクの経験が活かされ接触感染予防策はスムーズにできていました。

 

ほぼ満床でゾーニングに苦慮しましたが3日目にようやくゾーニングを実施しスムーズな動線をつくることができました。

 

他部門の支援も得ながら最低限のケアや業務を行いました。急性期病棟は、病棟の一部がレッドゾーンの状態であり、病棟内に感染拡大させないようにスタッフ配置や動線を考え対応しました。

院長・副院長・ICDと各部門の職責者で毎日ミーティングを行い、現状共有、対策検討を行いました。

困難にぶつかった時に協力し合い乗り越えることのできる看護集団へ
◇重なる想定外

今回のクラスターは想定外が重なりました。

いきなりの大規模クラスターであったため初期対応に手間取りました。

 

陽性患者の対応手順はありましたが、クラスターの対応手順は整備されておらずスタッフに迷惑をかけてしまいました。

 

年末年始期間も含まれ、勤務シフトの大幅な変更が必要となり非常勤職員も含め休日を返上し協力いただきました。

年末年始であったことや、近隣でもクラスターが多発していることから衛生資材の入荷目途が立たずPPEの確保に難渋しました。

各病棟師長が陽性で出勤できなかったのも想定外でした。

◇看護師の思い

日ごとに感染が拡大し、日々対応が変更になる中で、情報伝達が不十分であったことに不安を感じるスタッフが多かったようです。

また、患者さんのそばでじっくり関われないことや、最低限の業務しかできなかったことが辛かったとの声が多く聞かれました。

当院の看護師が、患者に寄り添いじっくりケアを行うことを大切にしていることを再認識しました。

限られた人員でも清潔ケアやリネン交換なども実施してくれていました。

◇管理者として

厳しい体制の中でお互いを気遣いながら協力し合い現場を守っていただいた病棟職員、師長代行として病棟を守ってくれた主任・副主任、支援に入ってくれた外来や管理部の看護職員、その他様々な支援をいただいた他職種に感謝します。

当院の安全管理者は「看護部の底力を見た、明日大災害が来ても大丈夫だと確信した」と看護職員の奮闘を評価しています。

 

困難にぶつかった時に、協力し合い乗り越えることができる看護集団であることを心強く思います。

支援に行くことで自身が感染し、自部門での感染拡大を引き起こすのではと不安を訴える看護師もいました。

対策をしていても感染してしまうオミクロン株の感染力の強さを考えると、支援を強く要請することができない葛藤もありました。

対策を実施する中では、正しい知識を周知することの難しさを実感しました。

 

院内ニュースなどで情報提供してきましたが十分理解されていなかったように思います。

また、十分なメンタルサポートができなかったのも反省点です。

◇組織として

当院はこれまで幸いにも大きな困難を経験したことがありませんでした。

今回のクラスターは災害レベルのできごとであり、組織の力が問われる機会となりました。

医師のリーダーシップのもと、全職種が一丸となって対応できました。毎日のミーティングでは対策の検討のみでなく、それぞれの疑問や不安を出せる場として有効であったと思います。

 

人々を苦しめる感染症のパンデミックは発生しないに越したことはありませんが、私は100年に一度あるかないかの新興感染症のパンデミックに現役看護師として関わることができてよかったと考えています。

こんなふうに思えるのは、職員の皆さんの協力で無事に乗り越えられたからであり、感謝の気持ちは言葉では言い尽くせません。

協力し支えてくださった皆さんに心から感謝します。

 

 

 

 

 

 

未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用

 

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掲載日:2025年2月25日/更新日:2025年1月17日