石川|人生最後に美味しい蕎麦が食べたい!|キラッと看護介護実践集より
『人生最後に美味しい蕎麦が食べたい!』コロナ禍でもみんなで希望を叶えよう
公益社団法人 石川勤労者医療協会 城北病院 緩和ケア病棟 / 病棟師長 鹿島 しのぶ
コロナ禍でも「24時間面会できる緩和ケア病棟」に
2019年6月に石川県で2施設目となる念願の緩和ケア病棟が城北病院に誕生しました。
地域、共同組織、職員からの期待も大きく、がん患者と家族の苦痛を和らげその人らしく生きられることを支援する希望に満ち溢れた病棟です。
しかし、2020年2月、突然のCOVID-19発生から世界的にも大きく日常生活が制限され心身ともに揺さぶられる時代に突入することになり、これまで自由に面会できた緩和ケア病棟にも危機が訪れました。
院内は、緩和ケア病棟以外の病棟はすべて面会禁止となり、常時マスク、シールド着用と徐々に重装備に変化していきました。
緩和ケア病棟は、病棟医長はじめ病棟スタッフ、多職種と話し合い、人生最後に会いたい人に会えないほどつらいものはない、城北病院としても緩和ケア病棟だけは何が何でも立ち上げ当時の24時間いつでも誰でも県外の方も面会できる病棟にしようとみんなで決め協力し合いました。
「24時間面会できる緩和ケア病棟」として、県内外問わずこれまで以上に「家族に逢いたい」「面会したい」という入院相談が増えました。
コロナ禍であっても、『いつもと変わらない日常』を大切に患者・家族のケアに取り組んできました。
「畑が見たい」「蕎麦が食べたい」患者と家族の希望を叶え、看護のやりがいを実感
A氏、80歳代男性、前立腺がん、妻と二人暮らし。
職業はご夫婦共に教員をされていました。
退職後は畑が趣味で野菜を育てることを生きがいにしていました。
▲手塩にかけた畑で妻と記念写真
緩和ケア病棟入院後はコーヒーを自身で淹れたり、奥様とお話したりと精神的にも安定し、穏やかな時間を過ごされていました。
身体のケアは清拭を気持ちがいいと好まれ1日2回希望され喜ばれていました。
ある日、「畑が見たいな・・・」と言葉にされ「でも動けないし、妻にも迷惑かけるから行く自信がない」と話されていました。病棟スタッフと一緒に思い切っていきましょうとお声掛けすると、「それなら行ってみたい」と希望に満ちた表情で話されました。
外出当日は天候にも恵まれ手塩にかけた野菜たちを見ることができ、畑で奥様と二人並んで記念写真を撮ることができました。 ふとA氏は「蕎麦が食べたいので出前を取ってほしい」と希望され、行きつけのお蕎麦屋に電話を掛けたところ、コロナ禍のため病院に出前はできませんと断られました。
しかし、「人生最後に美味しい蕎麦がたべたい」と希望があり、それなら主治医はじめ病棟スタッフで『お蕎麦屋さんに食べに行こう!』ということになりました。
だんだんと眠る時間が長くなっていく中、本当に蕎麦を食べに行けるのかと奥様の不安の声もありましたが、A氏の生きる力と蕎麦が食べたいという強い思いがあり、外出当日はしっかり車いすに乗られお蕎麦屋さんに行くことができました。A氏は、天ぷらそばを注文され「あーうまい」と誰よりも多くお蕎麦を食べることができました。
その後少しずつ眠りが深くなり、冬の寒波が去ったあと大好きな奥様と娘様に見守られる中、静かに旅立たれました。 奥様は「お父さんの大好きなコーヒーをお部屋で入れて飲んだり、香箱カニも食べたり、諦めていたお蕎麦も食べることができて幸せだったと思います」と話されていました。A氏ご夫妻の笑顔が私たちにも幸せをもたらし看護のやりがいを感じさせていただきとても感謝しています。
▲行きつけの蕎麦屋で「あ~うまい」と満面の笑顔
大切な時間を大切な人と共に過ごせる環境を守る
日本緩和医療学会等が2020年5月に日本全国のホスピス・緩和ケア病棟や緩和ケアチームを対象にウェブ上でアンケートを行ったところ、98%が面会制限を行っているという結果が出ました。
城北病院の緩和ケア病棟は、COVID-19に負けず今後もずっと24時間面会制限を行わず、患者と家族が面会できる環境を守り、残された大切な時間を大切な人と共に過ごせるように支援し続けようと決めています。
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集より引用
もっと読みたい人に!書籍のご紹介
未来にのこしたいコロナ禍のキラッと看護介護実践集
COVID-19が猛威を振るい始めてから3年以上が経過し、ワクチンや治療薬が承認され2023年5月8日に感染症5類になりました。通常の医療を継続しながら、感染対策や陽性者の対応・地域の問い合わせに翻弄させられた日々、「まず診る、支援する、何とかする」を実践した日々を忘れてはいけない。後世に残し継承するために、全国のキラッと看護介護のほんの一場面ですが一冊にまとめました。このコロナ禍で起きたことが、なかったことにされないように今後に同様な事態が起きた時に同じことが繰り返されないように、いのちに寄り添った生きやすい社会であることを切に願います。
全日本民医連 看護委員会
掲載日:2025年6月17日/更新日:2025年6月17日